あなたを守りたい
「それじゃまた明日」
「はい。お疲れ様でした」

 彼女がオートロックの扉の向こうに消えるのを確認して、僕は歩き出した。

 そこから10分ほど歩き、住み慣れた我が家に帰り着く。
 ドアの丸い取っ手をひねると、いつものように手前に引いた。
 途端、締め切っていた部屋から、生ゴミの匂いがした。
 今日はゴミ捨て日だ。
 夕食が済んだらすぐに出しに行こう。

 玄関を上がるとすぐにキッチンと一体化の部屋が広がる。
 僕は、キッチンの空間はそのままのフローリングで、あとの半分にはカーペットを敷いている。
 そこに、ベッドとタンスを置き気休めかもしれないけど、1部屋しかない空間を2部屋あるように見せかけている。
 ベッドの足元には天井まで伸びたメッシュのパーテーションで仕切りをし、そこにスーツやバッグなどを掛けていて、それがカーテン代わりになって、寝ている姿は見られない。
 と言っても、自分ひとりなので見られる心配など不要だけれど。

 食事の後、ゴミを捨てて風呂に入る。
 タオルで髪をこすりながら時計を見ると、まだ20時前だった。
 帰るのが早いとこんなにも余裕が出来るんだな。

 今日上った坂のせいだろうか。
 少し太股辺りにだるさを感じる。
 明日からも、千春さんのマンションの前を通って帰ろう。
 そうすれば、きっといい運動になる。

 僕はベッドに横になると、読みかけの本を開いた。



 翌朝僕は、彼女のマンションの前を通った。
 僕より早く家を出る彼女はもういないはずだ。
 2階って言ってたな・・・
 横に5軒並ぶ同じ作りのベランダ。
 彼女の部屋はどこだろう。
 2階部分に目を向ける。
 左端には男物の洗濯物が干してある。
 ここではない。
 その横は何も干しては無かったが、窓に黒のカーテンが引かれたままだ。
 きっとここも違う。
 その横は・・・
 
「あっ」

 そこには、昨日彼女が着ていたピンクのブラウスが干してあった。
 間違いない。
 あの部屋だ。
 
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