あなたを守りたい
 間もなく着工になるマンション建設予定地だ。
 そこまで広くはないので、今彼女が住んでいるマンションと同じ位かそれより小ぶりな住宅が出来ると思う。
 
 そこを通過しようと思った時だった。
 暗くて人の姿は見えなかったが、何やら奥の方で女性の声がしたような気がした。
 気のせいか? 
 しばらくその場に止まって耳を凝らす。

「いやっ」

 確かに聞こえた。
 奥に誰かいる。

 僕は暗闇に目を凝らしながらそっと近づいた。

「止めて」

 えっ?
 その声に聞き覚えがあった。
 千春さん?

「誰かいるのか?」

 僕は大きな声を出した。
 そこにいるのは千春さんでは?

 僕はポケットからスマホを取り出すと、声がする方に向かってライトを当てた。

 そこに映ったのは、千春さんだった。
 彼女の上に男が馬乗りになっている。

 男は、突然向けられた光に目を細める。
 そして、こちらに向かって走って来た。

「うるさい、邪魔するんじゃねぇ」

 男のパンチが顔に当たる。
 それで僕の何かがプツンと切れた。

 僕は自分でも信じられない位その男を殴った。
 千春さんを傷つけた男に今までにない怒りの感情が湧き出した。

「千春さんに何をした!!」

 男は、僕の気迫に恐怖を覚えたのか、最初の勢いはどこへやらで、すみませんを連発して逃げようとする。
 逃すものか。
 お前なんか死んでしまえ。
 尚も殴り続ける。
 だけど、僕にも体力の限界が来てしまった。
 その隙を突いたように、男は僕を押し倒すとそのまま走って逃げて行った。
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