あなたを守りたい
 起きなくては。
 倒れている場合じゃない。
 奥には千春さんがいる。

 僕はよろめきながら身を起こし、彼女の方に近づく。

「千春さん、大丈夫ですか?」

 スマホ。
 さっき殴られた時に落としてしまった。
 それを探さないと、暗くて何も見えない。
 千春さんと呼びかけても返事が無かった。

「千春さん、返事をして下さい!」

 不安で、つい大きな声になる。

「来ないで」

 奥からか細い声がした。
 僕は声がした方にゆっくりと進む。

「千春さん」
「来ないで」

 声はすぐ近くだ。
 僕は、前かがみになりながら、両手をレーダーのように左右に動かした。

 あっ。
 指先が彼女に触れる。

「触らないで!」
「えっ?」
「触らないで。私、汚いから、汚いから」
「そんな事ありません」

 気が付くと、僕の腕の中に彼女がいた。

「離して。私汚いから」
「そんな事ない。大丈夫。僕がついてる」

 僕から逃れようともがいている彼女を、僕は絶対離すもんかと抱きしめる。
 やがて彼女の抵抗は無くなり、身を縮めて小さくなった彼女の震えが伝わって来た。
 
「黒沢くん・・・」

 彼女は泣いていた。

「大丈夫。大丈夫だから」
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