あなたを守りたい
 どのくらい抱きしめていただろう。
 彼女の泣き声はしなくなっていた。
 もう離しても大丈夫だろうか?

「離しても、大丈夫?」

 胸の中で彼女の頭が上下に揺れる感覚がした。
 僕はゆっくりと彼女から離れる。
 暗くて顔は見えなかった。

 とにかく、ここから出なくては。
 それから、スマホ、どこに行ったんだろう?
 丁度その時、メールの着信で光が蘇る。
 あった。
 僕はその光が消える前に、いち早くそれを拾った。

 そして、もう一度懐中電灯モードにする。
 光が当たった先に、彼女の姿があった。
 
「見ないで」

 慌てて胸元を隠す。
 ブラウスが裂け、下着が露になっている。

「ごめん」

 僕は着ていたジャケットを脱ぐと、彼女に渡した。

「後ろ向いてるから、これを着て」
「・・・ありがとう」

 逃げた男への怒りがこみ上げて来た。
 何としてでも掴まえるべきだった。
 
「ありがとう」
「歩けますか?」
「ううん、ダメみたい」
「それじゃ、僕の手につかまって」

 彼女が伸ばした手を握り引き上げる。
 そして、転ばないように支えながら自宅へ連れて行く。
 通りに出ると、暗いながらも街灯の明かりで姿がはっきりした。
 幸い玄関に着くまで誰とも会う事はなかった。

「それじゃしっかり鍵を掛けて休んで下さい。帰ります」
「黒沢くん」
「えっ?」
「お願い一緒にいて」
「・・・それじゃ落ち着くまで傍にいます」
「ありがとう」 
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