あなたを守りたい
 受付の掃除をしていたので、てっきりそこの担当かと思っていたら総務の人だった。

 5階建ての自社ビルの、1階受付の傍には商談用のソファーとテーブルが用意されてる。
 洒落たタイルカーペットが敷き詰められ、大きな窓から入る陽射しでとても開放的な空間だ。
 突き当たりのエレベーターで2階に上がると、そこはショールームになっていた。
 実際に寝具を使用した時のイメージが湧きやすいようにベッドや家具を配置し、何パターンかの小部屋が作られている。
 売るのは、そこに使われているカーテン、羽毛布団、シーツ、アクセントラグ、クッションなどだ。
 ただし、ここを見に来るのは一般客ではなく寝具店や、デパートのバイヤー。
 いわゆる寝具の卸会社というやつだ。
 前の会社では個人客を相手にしていたけれど、この会社はその点が違う。
 まあ、個人であれ商店であれ、慣れれば何とかなるはずだ。

 3階が、僕らのいる営業部と、パーテーションで仕切られた総務と経理のフロアだ。
 まだ上がった事は無いが、4階には会議室、5階には社長室をはじめとする重役室があるらしい。

 僕は、自他共に認める草食系の男だ。
 身長175センチ、色白で痩せ型。
 体調を崩してから7キロ近く落ちていた体重も、やっと3キロほど戻った。
 これから夏に向かい、外回りをしていたら多少日に焼けると思う。
 ぜひ焼けてもらいたい。
 自分で鏡を見ても、この色の白さは異常だと思う。
 中学、高校の時は運動部に所属していたので真っ黒だった。
 だから、焼こうと思えば焼けるはず。
 病的な白さからの脱出が今年の夏の目標だった。

 午後6時。
 一応の定時。
 仕事が終われば帰ってもいいのだが、営業部は残業をする人が多い。
 というより、相手の店が終わってからの商談もあるので、20時くらいまで待機して出掛ける人もいる。
 
「あれっ? 千春ちゃんもう帰るの?」

 僕の隣の席に座っていた営業の先輩、金子武史が声を掛けたのは彼女だった。
 見ると、私服に着替えて肩からバッグを抱えている。
 事務服もいいが、私服はもっとかわいかった。

「今日はジムなの」
「千春ちゃん、ジムとか行ってんの? 何か、意外」
「それ、どういう意味よ。って、まあ行ってると言っても週に1回なんだけどね」
「それって、行ってる事になる?」
「なります! 行かないよりマシでしょ?」
「あんまり意味なくね?」
「残業した日は行けないし、そう言ってたら限られちゃうのよ」
「俺も通おうかな」
「金子くん、私より時間無いでしょ?」
「確かに」
「それから金子くん、黒沢くんはまだ入ったばかりなんだから、毎日残業させちゃ可哀想でしょ」
「いいのいいの。新人は鍛えなきゃ」
「意地悪なんだから。それじゃお先に」
 
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