あなたを守りたい
「クリーニングに出すわ。仕上がるまで少し待ってて」
「いいですよ。自分で出しますから」
「ううん。私に出させて」
「・・・わかりました。それじゃお願いします」

 僕にもたれてじっとしている彼女。
 このまま一緒にいられたらどんなにいいか。
 だけどそろそろ帰らなくては。

「それじゃ、帰ります」
「待って。帰らないで」

 不安そうな瞳で僕を見上げる彼女。
 
「だけど、このままいる訳にも。そうだ、彼氏さんを呼びましょう」

 バカ。
 何言ってるんだよ。
 彼女と2人っきりの絶好のチャンスを自ら手放すとは。

「千春さんも僕なんかより、彼氏さんの方が安心でしょう」
「・・・呼べないの」
「えっ?」
「彼とは遠距離恋愛なの。呼んですぐに来てくれるような人じゃないわ」
「僕だったら、どんなに離れていようと駆けつけます。翌朝しか着かなくても、どうにかして駆けつけます」
「あの人は無理よ。それに彼・・・」

 沈黙が続く。
 そして彼女が重い口を開いた。

「女が出来たみたいなの」
「えっ?」
「彼とは半年会ってないわ。だけど、はっきり別れたわけじゃないから、金子くんから彼氏いるのかって言われた時、一応いるっていう答え方をしたの」
「そうでしたか」
「私がメールしても一方通行。前回彼の家に行った時、部屋にピアスが落ちてたの」
「それって、彼氏さんのって事じゃ・・・ほら、男性も付けるじゃないですか」
「違う。明らかに女性ものだった」
「・・・」
「彼とはもうダメなのよ。4年も付き合ったのにね。きっと長過ぎたんだわ、私達」
「それでいいんですか?」
「えっ?」
「もう一度会って、真実を確かめた方がいいんじゃないですか?」
「ありがとう。黒沢くんって優しいね。でも、もういいの」

 本当にいいのだろうか。
 4年も付き合ってたら、将来は結婚の事も考えていただろう。
 本当にこれでいいんだろうか。
 って、僕が首を突っ込んでもどうしようもないんだろうけど。
 それでも、彼女の事が心配だった。
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