あなたを守りたい
「金子さん。応援して下さるのは嬉しいんですが、僕は本当に見守りたいだけなんです。そっとしておいてもらえませんか?」
「わかったよ。お前がそう言うんだったら、これからは茶化したりしないよ」
「ありがとうございます」

 金子さんは、軽いところもあるけど、人の気持ちがわかる人だ。
 この会社に入って、金子さんの下で勉強させてもらえてラッキーだった。
 千春さんと親しくなれたのも、金子さんがいたからかもしれない。
 いい人に出会えて良かった。
 

「あの、黒沢くん、まだ帰らないよね?」

 机から顔を上げると、いつの間にか私服に着替えた彼女が立っていた。

「えっ?」
「ううん、いいの。それじゃ、先に帰るね」
「千春ちゃんお疲れー」
「お疲れ様」

 金子さんに手を振り、くるりと背を向けて歩き出す彼女。
 その華奢な後ろ姿に立ち上がる。

「待って下さい。一緒に帰りましょう」

 驚いたように振り返る彼女。

「金子さん、先に帰ってもいいですか?」
「えっ? ああ、いいけど」
「すみません。それじゃ、後をお願いします」

 金子さんに挨拶をし、僕は机の下からカバンを出すと、彼女と一緒に外に出た。

「本当に良かったの?」
「ええ」

 僕を見上げる彼女の潤んだ瞳にドキリとする。
 僕はそれを悟られないように時計を見るふりをした。



 それから2週間が過ぎた。
 少し前から1人で帰れるようになった彼女だったが、その後も毎日、僕は彼女の部屋に電気が点いているかどうか確認して帰るようになった。
 もうすっかり坂道にも慣れた。
 最初、あんなに息を切らしていたのが信じられない。
 
 2日前、また近くで痴漢騒動があった。
 偶然近くをパトロールしていた警察により現行犯逮捕になった男が、どうやら彼女を襲おうとした男と同一犯だったらしい。
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