あなたを守りたい
 男が捕まり、彼女の不安もかなり軽減されたようだ。
 良かった。
 それでも、夜は相変わらず人通りの少ない道路。
 用心するに越したことはない。
 その後も僕の日課は続いた。


「黒沢、その後千春ちゃんとはどうなってるんだ?」
 
 黒沢さんとこうして一緒に外回りするのは今日が最後だ。
 早いもので、3ヶ月の試用期間も今日が最終日。
 明日から正式にこの会社の社員となる。
 と同時に、明日からは独り立ち。
 最初は金子さんから引き継いだ得意先を回るけど、そのうち新規開拓を始めなければならない。
 仕事に関しては上手くやれそうな気がする。
 この自信を、彼女に関しても持てるようになるといいのだが。

「どうって、依然と変わりありませんけど」
「何? まだ告ってないわけ?」
「ええ」
「ふぅーん。千春ちゃんも早くお前の気持ちに気づけばいいのにな」
「僕は、このままでいいんです」
「俺には理解出来ねー」

 本当は、僕ももっと親しくなりたい。
 自分の気持ちを正直に打ち明けたい。
 だけど、自信が無かった。
 僕が積極的になれない一番の理由は、自分に自信が持てないところだ。
 だから僕は、彼女を見守る事にした。
 
 お昼に会社に戻った僕らは、食堂に向かった。
 そこでスマホの画面を見ながら食事している彼女を見つけた。


「お疲れー。千春ちゃん、ここ座ってもいい?」
「どうぞどうぞ。会社で食べるの久しぶりじゃないの?」
「そうだね」
「黒沢くん、明日から一人で回るんでしょ? どう? 大丈夫そう?」
「はい。何とか」
「そうなんだ。案外金子くんの営業成績をあっという間に抜いちゃったりしてね」
「ちっ、ちっ、ちっ」
 
 金子さんが、人差し指をメトロノームのように左右に振った。

「千春ちゃん、俺を甘く見ているようだね。もし来月、こいつが俺を抜くような事があれば、フレンチのフルコースを奢るよ」
「ホント? 黒沢くん、聞いた? 是非頑張って。私応援してるから」
「はい。頑張ります」

 よし、頑張ろう。
 彼女が喜ぶ事だったら何だってやってやる。

 
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