あなたを守りたい
「お疲れ」
「お疲れ様でした」 

 そう挨拶するのが精一杯だった。
 営業をやって来たので、人と話すのは得意な方だけど彼女は別だ。
 顔を見るだけで心臓が高鳴り呼吸が荒くなる。
 それを悟られないように意識してゆっくり息をするけど、心臓のドキドキはおさまってはくれない。

 事務所から、彼女の姿が見えなくなった。
 明日の朝までしばしのお別れ。
 今この瞬間、朝になれと祈りたい。

「金子さん」
「うん?」

 彼は、営業日報にペンで書き込みをしていた。
 目は落とされたままだが、僕の言葉に耳を貸してくれている。

「金子さんは、藤井さんと親しいんですか?」
「同期なんだ」
「そうですか」
「彼女、かわいいよな」
「はい」

 あ、思わず返事をしてしまった。
 だけど、本当の事だ。

「何?」
「えっ?」

 金子さんが僕の顔をマジマジと見る。

「お前まさか、あいつに惚れた?」
「えっ! いや、それはその・・・」
「マジかよ」

 彼はそういうと、両手を頬に当てて椅子の背もたれにぐっと背中を押し当てた。

「隠してもムリ。お前、顔が真っ赤だぜ」
「えっ?」
「お前、何歳だっけ?」
「26です」
「そっか、それじゃ2つ年上の彼女でも別におかしくはないな」
「だから、そう早く話を進めないで下さいって。確かに藤井さんはかわいいし優しいし、とても素敵な方だと思います。でも、出会ってまだ3日しか経ってませんし・・・」
「一目惚れ・・・だったら、もう3日も経ったって言い方も出来るよな?」
「・・・」
「おっ、図星?」

 僕は観念したように頷いた。

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