あなたを守りたい
 もしかしたら、部屋の電気が点いていないだけで、もうとっくに戻っていたのかもしれない。
 そうこうしていると、目の前にパトカーが停車した。

「君、こんな所で何をしてる?」
「えっ、あの、いや、友人を待っているんです」

 何も悪い事をしていないのにこの挙動不審。
 ヤバい。
 不審者と思われている?

「友人?」
「はい。女性なんですけど、この辺夜になると物騒なんで」

 心臓がドキドキする。

「黒沢くん?」

 声の主は千春さんだった。
 彼女の姿に安堵する。
 無事だった事と、警察への疑いを晴らす為と。

「彼は、あなたの知り合いですか?」
「はい。同じ会社で働いています。彼がどうかしたんですか?」
「いえ。ここにじっと立っていたので声を掛けただけです」
「そうですか? それじゃ、もう行っても大丈夫ですか?」
「はい。済まなかったね」
「いえ。パトロールご苦労様です」
 
 僕たちが歩き出すと、その横をパトカーがゆっくりと追い越して行った。

「びっくりさせないで。また事件があったのかと思ったじゃない」
「すみません」
「ごめんね。私を心配して待っててくれてたのよね?」
「いえ。マンションの前まで行ったら明かりが点いてなかったので、ちょっと戻って来たところです。今来たばかりなので、心配しないで下さい」
「・・・私、今度から土曜日の昼間に行く事にするわ」
「えっ?」
「あなたに迷惑掛けたくないの」
「迷惑だなんて。ここ、通り道だし」
「黒沢くん、ここが私の家だと知らなかった時は、大通りを帰っていたんでしょ? だから、これからはその道を通って帰って。私の為に、わざわざ遠回りをして欲しくないの」
「わかりました」
「今日はどうもありがとう。それじゃ・・・」
「おやすみなさい」

 彼女がオートロックを解除して中に入るのを見届けると、僕はその場を離れた。
 もうこの道を通るのは止めようか。
 好きでもない男から待たれるなんて、迷惑な行為だったのかもしれない。
 心配だけど、彼女から嫌われたくはなかった。
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