あなたを守りたい
失恋
 早めに目が覚めた。
 カーテンを開けると日差しで目の奥がチカチカした。
 今日も晴天。
 早く彼女に会いたい。

 いつもより早いバスで会社に向かう。
 昨日までの3日間、毎日受付を掃除している彼女がいた。
 一体何時に出社しているんだろう。
 僕も30分前には行くようにしていた。
 それでもいつも彼女が先だった。

 今日はさすがに僕の方が早いはずだ。

 と思ってビルに入ると、またしても彼女がいた。
 今日はまだ掃除ではなく観葉植物への水やりの最中だった。

「おはよう、黒沢くん」
「お、おはようございます」

 またしても心臓が飛び跳ねる。
 静まれ、心臓。
 10代のガキじゃあるまいし、どうしてこうもドキドキするんだ?
 何だか恥ずかしくなってくる。
 いい年した男のくせに。

「どうかした?」
「いえ。あの、藤井さんって、何時に出社されてるんですか?」
「う~ん、1時間前位かな?」
「そんなに早く?」
「朝には強いの。早く目が覚めちゃって。今からこれじゃ、年を取ったらどうなっちゃうんだろうって、ちょっと心配してるの」
「僕も、朝はわりと早くに目が覚めます」
「そうなの? うちの弟見てたら、よくそんなに寝られるわねっていう位部屋から出て来ないの。お正月に帰った時なんか、起きて来たの夕方の4時よ。よくそんなに寝られるわよね」
「僕の弟もそうですよ。僕自身も、高校の時まではよく寝てました」
「そっか、そう言えば私もだ。やっぱり10代の頃までは眠たいものなのね」
「そうですね」

 そんなたわいもない話で、何度もあの笑顔が見られた。
 やっぱり最高の笑顔だ。
 あ、いつの間にか脈が平常値に戻っている。
 良かった。
 これからもっと彼女と話がしたい。
 早く慣れなきゃ。

「それじゃ、ロッカーに荷物置いて来ます」
「うん。またね」

 軽く会釈をし、エレベーターに乗る。
 振り向くと、彼女は水やりを再開していた。
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