あなたを守りたい
「おはようございます」
 
 事務所にはまだ2~3人の営業マンしか出社していなかった。
 僕は自分の席に座ると、ノートパソコンを立ち上げる。
 金子さんに同行しての勉強。
 まだ得意先回りしかしていなかったけど、独り立ちしたあかつきには、新規開拓をしなくてはいけなくなる。
 大丈夫だろうか。
 前職の事が蘇る。
 だけど、僕はここを辞めるわけにはいかない。
 彼女と離れたくないし、すぐに辞めたら今後もその癖がついて、何事にも打ち込めなくなりそうだからだ。

「おう、早いじゃないか」
「おはようございます」

 少し遅れてやって来た金子さんは、大きなあくびをしながら席につく。

「寝不足ですか?」
「まあな。ビデオ観てたら寝れなくなっちゃって」
「運転しながら居眠りしないで下さいよ」
「大丈夫だって」

 と言いながら、2回目のあくび。
 今日の運転は僕がした方が良さそうだ。

 8時55分。
 いつものように朝礼が始まる。
 この時だけ、社長が上から降りてきて挨拶をする。
 それ以外の時間に社長が社内を歩いている姿を見た事が無い。

 9時。
 始業のチャイムと同時に、今日の仕事が始まった。

「黒沢、このリストにある商品を、倉庫から出して車に積んでおいてくれ」
「わかりました」

 僕は2階のショールームに向かった。
 在庫はショールームの奥にある倉庫に置かれていた。
 今日行くお得意さんに届けるらしい。

「えっと、どこだ?」

 ここに来るのは2回目だ。
 1回目はここが倉庫だって事しか教えて貰えなかったので、商品を探すのは初めてだ。

「わかんないな・・・」

 ひとつの商品を見つけ出すのに5分もかかってしまった。
 このペースじゃ、金子さんに怒られる。

「だけど、わかんねー」

 
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