あなたを守りたい
「南方面に15分走った所で起こしてよ」
「そんな漠然とした言い方・・・」
「いいからいいから」

 まったくもぉ。
 僕は仕方なく、エンジンを掛けると右にウインカーを出した。
 
 結局金子さんが目を覚ましたのは、走り出して20分経ってからだった。
 僕達は午前中に2ヶ所回っただけで会社に引き返す。
 午後からは、その遅れを取り戻す為に残業する事になるだろう。
 まあ、こういう日もあるさ。
 天気は良いし、窓を開けて走るのは気持ちが良かった。

 事務所に戻ると、ほとんどの社員がいなくなっていた。
 丁度昼休み。

「黒沢、社食行ってみるか?」
「そうですね」
 
 社員食堂は、1階エレベーターを降りて左へ行き、壁伝いに更に左に折れた奥にある。
 従業員75名の会社にしてはメニューも充実していて値段も安い。
 僕達営業は外で食べる事が多かったけど、内勤の女性達はほとんどここで食べているようだ。
 もちろん、自分で弁当を持参する人もいる。
 そういう人も、食堂で食べている。
 マジックミラーの大きな窓からは、外を歩く人は良く見えるけど、外から中の様子は見えない。
 窓際の席にへばりついて、外を見ながら食べていても全然恥ずかしくはなかった。

 丁度お昼に戻った僕は、金子さんと一緒に食堂に向かう。
 入口の少し手前から、鼻腔に流れ込む良い匂い。
 それと同時にお腹が鳴った。

「あっ、いたいた。千春ちゃん、隣の席空いてる?」

 僕達は、日替わりランチのトレイを持ちながら、入口付近の席に座っていた彼女に近づく。

「あら、珍しいわね。今日は外で食べて来なかったんだ」
「まあね。ほら、黒沢も座れよ」
「あ、はい」

 金子さんは4人掛けのテーブルの、千春さんの向かい側を陣取った。
 その横に座ろうとしたら、お前はそっち的な目で見るもんだから、彼女の右横に座るはめになった。

「今日はひとり?」
「うん。私お昼はひとりが多いかな」
「真紀ちゃんとかと仲良いでしょ?」

 金子さんは、どうも社内の自分と同じ年かそれ以下の女性は、苗字では無く名前で呼ぶらしい。
 かなりの人数だけど、よくもまあ、下の名前まで覚えられるもんだ。
 会社にいる時は誰かれかまわず声を掛けるし、女好きと言おうか、とにかくマメな人だ。

「真紀ちゃん、いつも外で食べるのよ」
「えっ? そうなの?」
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