婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
舞い降りた怪獣
『ピー ピー ピー』
浴室からの呼び出し音が、リビングに鳴り響いた。
私はバスタオルを広げながら、バタバタとお風呂場へと向かった。
「また 勇斗、寝ちゃったの?」
圭司の腕の中で気持ちよさそうに眠る我が子を見て、私はクスリと笑った。
「ああ さっきまでは、ずっと泣いてたけどな…」
圭司は優しく微笑みながら、愛する我が子を私の手にそっと預けた。
結婚して七年…
ようやく、私達にも新しい家族が誕生した。
生後三カ月になる勇斗は驚くほどパパにそっくりで、まさに圭司の分身だ。
可愛くて、愛しくて…
かけがえのない私達の宝もの
私はベビーベッドに眠る我が子のほっぺたに、軽くチュッと口づけた。
「うちの小さな怪獣も、寝顔は天使だな…」
お風呂上がりの圭司が、タオルで濡れた髪をふきながら寝室へと入って来た。
「そうだよね でも、お風呂は圭司が入れてくれるから助かるよ~ 勇斗は水が嫌いだから、ちょっとでもシャワーが顔にかかると大騒ぎだもん…」
「あー それな ホント男のくせに情けねーよな…」
私は圭司の言葉に、はっとして振り返った。
「圭司 ダメだからね… そういうのは、かえってトラウマになっちゃうんだから… 圭司にその気がなくても虐待だよ…」
「は? 何が?」
怪訝そうに顔をしかめる圭司…
「いや あれでしょ 勇斗の水嫌いを克服させようとして、わざと顔にシャワーのお湯かけたりしてるんでしょ? 毎回、泣き疲れてグッタリしてるもん…」
「はあ? いくら俺だって、生後三カ月の我が子にそんなことする訳がないだろ… ちゃんと細心の注意を払って、洗ってますよ… それでもかかっちゃうんだから仕方がないだろ? だいたい、毎回毎回 泣かれながらお風呂入れるの、すっげー大変なんだからな…」
圭司はジロリと私を睨んだ。
マズイ すっかり圭司はご立腹だ…。
「はい スミマセンでした…」
ここは、素直に謝った方が良さそうだ…
「ホントに悪いと思ってんの~?」
横目で私を見ながら尋ねる圭司…
「思ってるよ ごめんね 虐待だなんて言って… ほら、圭司って何でも器用にこなすから、まさか洗うのが下手で泣かせてるだなんて思わなかったんだもん… だって、勇斗が泣き疲れて寝ちゃうなんてよっぽどでしょ… 私でさえ、そこまで泣かれたことなんてな… キャ! ちょっと なにすんの やめてよ くすぐ…ったいって キャ」
圭司は私を押さえながら、脇腹をくすぐり始めた。
「なつが全然謝る気がないらしいから… もう 許してあげない…」
どこか愉しんでいるような顔で、容赦なく攻めてくる圭司…
その攻撃になす術もなく身をよじる私…
「アハハ もう ホント やめてって もう一回 謝る! もう 降参~」
勇斗がぐっすりと眠る中、私の悲鳴が響き渡った。
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