婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
そんな…
やっぱり、圭司は私のことなんて…
ツーと一筋の涙が頰を伝っていくのを感じた。
しばらくして、シャワーを終えた圭司がベッドの中へと入ってきた。
キングサイズのベッドで背中を向けられると、圭司が凄く遠くに感じてしまう。
いつから私と圭司の間に、こんな距離ができていたんだろうか…
もう、こんなの限界だ…
私は圭司の背中にしがみつき、声を出して泣いた。
「えっ! なつ?」
驚いた圭司が、慌てて私の方に振り向いた。
「なつ どうしたんだよ 急に… 何で泣いてるの?」
圭司は困惑の表情を浮かべながら、心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「そんなの… 圭司が私を拒んだからに決まってるでしょ…」
「えっ 拒んだ…って… いや あれは、」
「いいよ 無理しなくても… さすがに、私だって気づくよ 圭司に女として見られなくなったことぐらい… キスだってしてくれなくなったし、指一本、触れてもくれないんだから… 圭司は北川さんがいいんでしょ?」
「え…」
私の言葉に、驚いたように固まる圭司…
「そりゃ 彼女は綺麗だし、私と違って、髪もメイクも服もバッチリで… 仕事が出来て気も利いて… 圭司が好きになるのも無理はないけど… でも…だからってこんなの酷いじゃない」
「いやいや ちょっと待てって… 何で俺が北川を好きっていう話になってるんだよ 俺は北川のことなんて何とも思ってないんだけど…」
「だって、圭司、北川さんにデレデレしてたじゃない!」
「してないだろ」
圭司はふーと息を吐きながら、私のことを抱き寄せた。
「ごめん なつを不安にさせてたなら謝るよ… でも、俺はちゃんとなつが好きだし、北川がどんなに綺麗だろうと仕事ができようと、俺はなつしか見てないよ なつは俺のこと信じられない?」
圭司は真っ直ぐな眼差しで私を見つめた。
そうだよね
この瞳で、圭司が嘘なんてつくはずがないんだ…
「信じるよ…圭司 だけど、どうして、キスまでしてくれなくなっちゃったの? 仕事が忙しくなったのは分かるけど、それにしたって…」
そう これだけは、きちんと理由を聞いておきたい…。
キスをくれなくなったのが、ちょうど圭司が北川さんと仕事を始めた時期だと気づいてしまった私を、ちゃんと安心させて欲しいから…
「キスしたら、止まらなくなるからだよ…」
観念したように、ボソッと圭司が呟いた。
「え?」
「俺だって、さすがに、そろそろ限界なんだよ なつを抱かずに同じベッドで寝るのもさ… それに、疲れてると理性が効かなくなるから、背中を向けて寝るしかなかったんだよ… ごめんな だから、全然なつが心配するような理由じゃないよ…」
「そっか…」
圭司の言葉にホッとして、肩の力が抜けていった。
「でも、何で圭司は、そこまでして我慢してくれてるの? 確かに勇斗の世話で疲れてる時もあるけど、私なら全然平気なのに…」
「いや だって、なつが言ったんだろ? しばらくは体もキツイし、勇斗で精一杯だからエッチはもう少し待ってくれって… だから、なつがさっきみたいに俺の為とかじゃなくて、自分からしたいって言い出すのを、ずっと待ってたんだけど…」
あー 確かに夜のミルクが辛かった頃、そんなことも言っていたような…
あの時は母乳の件でも悩んでいたし、とにかく色々あってお願いしていたことさえ、すかっり忘れていた。
「そっか そういうことか ごめんね 圭司 でも 私、これでゆっくり眠れそう…」
全ての謎が解けて安心したからか、何だか急に眠気が襲ってきた。
瞼が落ちたその瞬間、圭司が私の上にガバッと覆い被さった。
「何言ってんの? 今夜は朝まで寝かさないよ きっちり責任取ってもらうから…」
私を見下ろす圭司の目が、獲物を捉えた獣のように、鋭くキラリと光った気がした。