婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~

その夜、圭司が帰ってきたのは、夜中の12時を少し過ぎた頃だった。

玄関から入ってきた圭司は、誰かと携帯で話していた。

私はベッドの中で、その声に耳を傾けた。

『あ みさき? もう、家着いてる? 俺のプライベート用の携帯ってあった? あー やっぱ 寝室に置きっぱなしだったか… じゃあ ごめん ちょっと預かっててくんない… 悪いな えっ? ああ 大丈夫 明日のことなら、気づかれてないよ… ハハハ まあな それじゃ』

そこで、会話は終わった。

みさき…
今、みさきって呼んでたよね!?

それに、みさきさんの寝室に携帯を忘れたってことは、圭司はみさきさんの家に泊まってたってことだ…

えっ! 誰?
みさきさんって誰!?

私は、新たな女性の出現に頭が混乱状態となった。

いやいや 待って
もしかしたら、みさきさんが北川さんなのかもしれない

そうだ、きっと…
北川さんの下の名前が、みさきさんなんだ!

じゃあ やっぱり、圭司は北川さんの家に泊まってたってこと?

『明日のことなら、気づかれてないよ…』

じゃあ、これも、私に内緒で行くディナークルーズの話とか?

悲しいことに、辻褄が合う。
やっぱり、ゆずちゃんの言うとおり、二人はそういう関係なのだろうか…

でも、圭司に限って…
あんなに愛おしそうに私を抱いてくれたじゃない…

それも、全て浮気を隠す為の演技だったとでもいうのだろうか…

『ごめんな なつ』

夜中に聞いたあの言葉も、浮気してることへの謝罪だったのだろうか…

考えれば考えるほど、悪い想像しか浮かんでこない。

と、その時、ガチャと音がして寝室のドアが開けられた。

圭司は私が眠っていると思ったのか、静に着替えを済ませると、シャワーを浴びに再び寝室を出て行った。

もう、一層のこと本人に聞いてしまおうか…
今日は、初めからそのつもりだったのだから…

でも、聞いたところで、本当のことなど教えてくれるだろうか…

ふと、視線の先に、圭司がたった今置いていった仕事用の携帯があった。

もし、今、この携帯から圭司のプライベート用の携帯に電話をかけたら、きっと、みさきさんが出るだろう。

みさきさんの正体を暴くには、今しかない…

私は震える手で、携帯を握った。

何度か躊躇いながらも、思い切ってかけてみた。

トゥルルルル トゥルルルル

『もしもし 瀬崎さん?』

耳元に女性の声が響いた。

『北川さんですか?』

私の心臓が大きく鳴った。

『あ えっと… は…い あっ 奥様ですか?』

私はそこで、電話を切った。

ふーとゆっくり息を吐きながら、目を閉じた。
その瞬間、涙が止めどなく溢れ出してきた。
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