婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
「ほら なつ 圭司さん、来てくれたんだから、ちゃんと二人で話し合いなさいね 私達はもう二階へ行くから あっ それから、今日は圭司さんにも泊まってもらいなさい お布団なら和室の押入に入ってるから」
それだけ言い残して、母達はリビングを出て行ってしまった。
泊まってもらったら、私が家を出てきた意味がないじゃない…
母のお節介にため息をついていると、隣にすわった圭司が私の方に顔を向けた。
「なつ」
圭司は凄く真剣な表情で私に言った。
「あれからすぐ、北川から電話がきたんだけど… なつが出て行ったのって、北川のせい?」
私は圭司の質問に、黙って頷いた。
「そっか… なつは、俺と北川のこと疑ってるの?」
「……そりゃ、あの携帯に北川さんが出れば疑うよ。ゆずちゃんだって、心配して電話くれたんだから 昨日、会社の給湯室で『ずっと俺が泊まっててごめんな』って北川さんに言ってたんでしょ? さっきも電話で、北川さんのことを、みさきって呼び捨てにしてたし、それに彼女の家の寝室に携帯を忘れてきたんだから、浮気してるとしか考えられないじゃない…」
私がぶちまけるようそう言うと、圭司は「あ~ そういう事か…」と小さく呟いて頭を抱えた。
「えっ?」
これは、認めたってこと?
恐る恐る、圭司の顔を覗きこんだ。
「いや ごめん 今、なつの誤解をどうやって解こうかって考えてる…」
圭司は弱ったような顔でそう答えた。
「どうせ、言い訳考えてるだけでしょ 誤解なら、正直に言えばいいじゃない!」
「じゃあ 言うよ… まず、北川とみさきは別人だし、みさきは男だよ…」
「そんな訳ないでしょ! 嘘つくにしても、もう少しまともな嘘にしてよ」
こんな無理のある嘘までついて、誤魔化そうとしている圭司に腹を立てていると…
「ほら、信じないだろ? あっ そうだ ちょっと待ってて…」
圭司はそう言って、携帯から誰かに電話をかけかけ始めた。
『あ 悪い 北川』
えっ!
北川さん!?
もしかして、北川さんの口から、『浮気なんてしてません』とでも言わせるつもりなのだろうか…
私が睨むような視線を向ける中、圭司はそのまま会話を続けた。
「もう、みさきって寝ちゃった? そっか じゃあさ ちょっと協力してくれない? みさきの免許証の写真とって送ってくれるかな? あと、ついでに、みさきにキスしてる写真も一緒につけてくれるとありがたいんだけど… ああ そうだよ 必死だよ…俺も じゃ、悪いけど宜しくな」
「ちょっと、何なの? キスとか…」
全く話の意図が読めずに苛立っていると、圭司の携帯にLINEの着信がきた。
「なつ これ見て」
圭司が差し出した画像には、『三崎俊介』と書かれた男性の免許証が映っていた。