婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
「まったく、なつは人騒がせなんだから 圭司くん すまなかったね なつが浮気だなんて大騒ぎして…」
朝食を食べながら、父が圭司に頭を下げた。
「いえいえ 誤解させるようなことをした僕がいけないので… こちらこそ本当に迷惑おかけしました。」
「とんでもないわ もう なつ… ちゃんと反省するのよ」
すかさず母が私にそう言った。
「えっ? あー うん 反省してる…」
そう返事を返しながら、勇斗の離乳食を必死に食べさせていると、母が隣から手を伸ばし勇斗を自分の膝へと座らせた。
「あっ…」
「よしよし 勇斗 それじゃあ、おばあちゃんと一緒におまんま食べましょうね」
「お母様… いいよ 私が」
「あら いいじゃない 勇斗の面倒くらい少しは私にも見させてちょうだいよ それに、今はまだ人見知りもないけれど、そのうちママじゃなきゃヤダッてなるんだから そうならない為にも、ちゃんと今のうちから懐かせたいと思っているのに、なつったら全然預けにも来てくれないし… だから、今日こそは、一日こちらで面倒みさせてもらいますからね…」
きっぱりと言い切ると、母はニコニコしながら勇斗に離乳食を食べさせ始めた。
「なつ お母さんもこう言ってくれてることだし、ご好意に甘えようよ…」
「あ うん じゃあ お願いします…」
「分かればいいのよ そうだ なんだったら、今日はどこかホテルにでも泊まってきたら? せっかくのお誕生日なんだし、今夜は圭司さんと素敵な夜を過ごしてらっしゃいよ~ それで、二人目ができたら一石二鳥じゃな~い」
「ちょっと! お母様、何言ってるのよ」
「そうだよ 節子は何言ってるんだ…」
母の発言に私と父が真っ赤に顔を染める中、圭司だけは「ありがとうございます ご期待に添えるように頑張ります」と、ニコリと笑って答えていた。
こうして、私達は圭司の当初の計画通り、父と母に勇斗を託し出かけることとなった。
ディナークルーズには、まだ随分早いけれど、圭司がドライブがてらどこかに連れて行ってくれるようで…
朝食の後、圭司がプレゼントしてくれたワンピースに袖を通し、早速、私達は家を出た。
圭司はチノパンに白いシャツというディナークルーズにしては、少しカジュアルな格好にも見えたけれど、車に積んであったジャケットを羽織ると、その印象は一気に変わった。
これなら、ドレスコードに引っかかる心配もなさそうだし、それどころか周りの目を引くくらい着こなしている。
問題は私だ…
せっかく圭司に用意してもらったこの素敵なワンピースと靴が、私の黒くて重たい髪のせいで台無しなのだ…
こんなことなら、母に勇斗を預けてでも美容院くらい行っておけば良かったと、今更ながら後悔してしまう。
でも、こればかりは仕方ないかと諦めていると、圭司がハンドルを切って、有名な美容院の駐車場へと車を止めた。
「えっ?」
「なつの為に、予約入れておいたんだよ」
「うそ えっ 何で今年の誕生日は、こんなに至れり尽くせりなの!? 式を挙げた五年目記念だから?」
戸惑う私を見て、圭司が笑った。
「うーん 強いて言えば、なつが子育てを頑張ってくれてるご褒美かな~ それに、前に北川と自分のこと比べて悲しそうな顔してただろ? まあ 俺はどんなにボサボサ頭だろうと、なつが一番可愛いと思ってるけどね」
「ボサボサ頭だけ余計だよ… でも、ありがとう」
私が照れながらそう言うと、圭司は私を運転席へと引き寄せて唇に甘いキスをした。