婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
「ふっ ふえーん ふえーん」
突然、美咲ちゃんが大きな声で泣き出した。
「あっ そっか 美咲、おっぱいの時間だ~ じゃあ ごめん またね~」
「あ うん またね!」
美咲ちゃんママは私に手を振りながら、ベビーカーを押して公園を去って行った。
ふと、勇斗に視線を戻すと、自分の親指をチュパチュパと舐めていた。
「勇斗も帰ってミルク飲もっか…」
私は立ち上がり、勇斗を連れてマンションへと向かった。
「は~い 勇斗く~ん お待たせ~」
私は勇斗を抱きかかえ、哺乳瓶の先を勇斗の口に咥えさせた。
勇斗は今、ミルクで育てている。
本当はちゃんと母乳で育てたかったのだけれど、勇斗を生んですぐに私がインフルエンザにかかってしまったのだ。
ちょうど里帰り出産をしていた為、勇斗の面倒は全て母が見てくれて助かったのだけれど…
その間、母乳を飲まなかったことで、勇斗はいつの間にか哺乳瓶からでしかミルクを飲まなくなってしまった。
そして、勇斗に吸われなくなった私の胸も、だんだん張らなくなっていって、そのうちに全く出なくなってしまった。
ちょうどこのマンションに帰ってきた頃、私は圭司に泣きながら頼んだ。
『母乳さえ出れば、勇斗ももう一度吸ってくれるかもしれない… ちゃんと出るように圭司が吸ってくれる?』
あの時の私は、どうかしていた…
せっかく授かった我が子に、母乳を与えてあげられない罪悪感で…
でも、圭司は私の我が儘に付き合ってくれた。
まだ、大人の力で吸えば、ほんの少しだけ出ていた母乳…
これを圭司は黙って吸ってくれたのだ。
そして、数日たったある日、圭司が私に言った。
『なつ 今日でお終いにしよう なつは勇斗の為に一生懸命頑張ったんだから、そんなに自分を責めることないんだよ 確かに母乳の方が免疫はつくのかもしれないけど、ミルクで育てたってちゃんと育つから… それに 例え、なつの母乳が復活しても勇斗が吸わなかったら、なつはストレスに感じるだろ? その方が勇斗にだって、よっぽど良くないよな?』
私が泣きながら頷くと、圭司は思い切り抱きしめてくれた。
圭司の言葉で目が覚めた私は、その日から、笑顔でミルクをあげられるようになった。