婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
父の想い
あの浮気騒動から1年が経ち、勇斗は1歳6カ月を迎えた。
あの後、新ブランド立ち上げの仕事が成功した圭司には、課長昇進の話がきていたようだけれど、その話は三崎さんに譲って自分は元の営業職への異動を希望した。
けれど、三崎さんも課長の話を断って、結局、課長の椅子についたのは北川さんだった。
そして、その半年後、二人はめでたくゴールインした。
結婚式で北川さんは、「私が一生この人を守っていきます」と宣言したという。
そして、希望通り営業課へと戻った圭司は、また昔のように早く帰ってきてくれるようになった。
『こんなに毎日早く帰ってきて、怒られないの?』と尋ねると…
『ちゃんと営業成績はトップをキープしてるから、どんなに早く帰ろうと誰も何も言わないよ』と笑っていた。
圭司は会社から帰ってくると、真っ先に勇斗をお風呂へと入れてくれる。
その間に夕食の支度ができるから、とても助かってはいるのだけれど…
「こら 勇斗~ 男だろ? 少しくらい我慢しろよ」
「うえーん」
今日もお風呂場から、勇斗の泣き声が聞こえてきた。
そう
勇斗は相変わらずシャンプーが大嫌いで、未だにお湯がかかると大騒ぎになる。
「あ こら どこいくんだよ 勇斗! なつ~ 勇斗が脱走した~」
圭司の叫び声と共に、お風呂場からバタバタと勇斗が逃げ込んできた。
「うえーん まんま~」
勇斗は泣きながら、キッチンにいた私に抱きついた。
「あー もう 勇斗 ダメでしょ~ 逃げてきちゃ~」
「うえーん うえーん」
「勇斗~ 恐くないよ~ パパ 優しく洗ってくれてるでしょ~? 髪の毛あわあわだから、パパにちゃんときれいにしてもらおうね~」
しがみつく勇斗にそう言い聞かせて、お風呂場の中へと勇斗を戻したのだけど…
泣き続ける勇斗が気になって、私は扉を少しだけ開けて二人の様子を覗いてみた。
「ほら 勇斗 もう少しだからな 目をつぶってろよ」
中では、圭司がそう言いいながら、泣いている勇斗に頭からシャワーをかけていた。
「えっ!! ちょっと 圭司 可哀想でしょ! 頭からかけちゃ!」
「え?」
突然の私の声に、圭司が手を止めて顔を上げた。
「ここ最近、お風呂場から勇斗が逃げ出してくるのはそういうことだったんだね もう 何考えてんのよ 圭司は」
「いや だって、1歳過ぎてるんだから、少しはお湯に慣れさせないとさ… いつまでも甘やかせる訳にいかないだろ?」
「だけど、こんなに泣いてるじゃない… やり方ってものがあるでしょ!」
「泣いてても少しずつできるようになってんだよ なつは黙っててくれる?」
「はあ~ 何よ! その言い方…」
「っていうか… 寒いから閉めてくんない」
パタンと扉を閉められ、閉め出された私…
「ちょっと 圭司!」
それがきっかけで、その日はお互い一言も口をきかなかった。
「えー それで三日間もケンカしてるの~? 今回は随分長そうだね~」
公園の砂場で子供達の相手をしていた美咲ちゃんママが、唖然とした顔でそう言った。
「うん だって、私がお風呂に入れるって言っても聞き入れてくれないし… なつに任せたら、勇斗は甘ったれてダメな奴になるって言うから、カチンときちゃって… 別に私はそこまで過保護になんてしてないし…私だって勇斗の水嫌いを何とかしようと色々考えてるのに… だいたい、あんなに泣かせてまでやる圭司のやり方の方が、絶対問題あると思うんだけど…」
「ねえねえ もう 穴掘るのその辺でいいんじゃない?」
美咲ちゃんママの言葉にハッとすると、勇斗達の為に掘ってあげていた穴が巨大化していた。