婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~

次の日、私達はお弁当を持って、家から少し離れた所にある大きな公園へと車で出かけた。

爽やかな秋晴れとなり、今日は絶好の行楽日和…
公園内は私達のような親子連れで賑わっていた。

アスレチック広場に向かうと、子供達の楽しそうな声が聞こえてきた。

「勇斗 あそこにある滑り台、パパと滑ってこよっか」

圭司が声をかけた途端、勇斗は首を横にふって私の後ろへと隠れてしまった。

「あの滑り台、いつのも公園のよりちょっと高いし… 勇斗には無理かもしれない… 怯えちゃってるから」

「いや でも、勇斗くらいの子でも一人で滑ってるし 俺が付いてれば平気だろ ほら 勇斗 おいで パパと一緒に滑れば恐くないから」

そう言って、圭司は勇斗の手を引っ張ったけれど…

「うえーん」

勇斗はとうとう泣き出してしまった。

「マジか… ホント怖がりだな 勇斗は…」

圭司が呆れたように、ため息をついた。

勇斗はいつもこうだ…
決して能力的にできない訳じゃないのだけれど、おっかながってやろうとしない…

運動神経だって悪い訳ではないのに、度胸がないというかなんというか…

でも、いつまでもここままじゃ…

「ねえ 勇斗 あの滑り台の上にね… 勇斗の大好きなお菓子があるらしいよ~ パパと一緒に探しておいでよ~」

なんて、ちょっとでまかせを言ってみた。

すると、勇斗はえっというような顔をして、泣くのをやめた。

うそ
食いついた!?

「あのね 勇斗 勇斗の好きなチョコぴーだって~ どうする? 早く行かないと他の子に取られちゃうかもよ~」

私の言葉を聞いた勇斗は、目を丸くさせながら、滑り台の方をしきりに気にし始めた。

「なつ ナイス!」

圭司はそう言うと、私のバックからこっそりチョコぴーを忍ばせて、勇斗の手を取った。

「よし 勇斗! チョコぴーパパと探しに行くぞ!」

勇斗はコクンと頷きながら、圭司と一緒に滑り台へと歩き出した。

そして、しばらくすると、勇斗は嬉しそうにチョコぴーを抱えて、圭司と一緒に滑り台から滑ってきた。

「うわ~ 凄い 勇斗! 滑れたじゃな~い!」

私は嬉しくなって、勇斗を抱きしめようとしたのだけど…

勇斗は「チョロぴー…」と言いながら、箱を開けろとせがんできた。

「はいはい 勇斗はチョコぴーのことで頭がいっぱいなのね」

苦笑いを浮かべながら私がチョコぴーの箱を開けていると、圭司が可笑しそうに笑った。

「勇斗はホントくいもんに弱いのな あんなに怖がってたくせに、くいもんにつられて簡単に騙されちゃうんだから… そういうとこ誰かさんそっくりな さすが親子」

「えっ?」

「ん?」

「今、さらっと私の悪口言った?」

「言ってないよ なつも勇斗も単純で可愛いいって言っただけ…」

「何よ それ~ 私が一歳児並みに単純だって言いたいの~? 失礼しちゃう せっかく、勇斗の滑り台克服させたのに~」

「アハハ ごめん バレちゃった? じゃあさ、あそこに売ってるソフトクリーム買ってきてあげるから許してくれる?」

「いらない 私は簡単に食べ物にはつられないから…」

プイッとそっぽを向く私…

「あっ そう それは残念… じゃあ 勇斗 二人で食べちゃおうな~ ママはいらないんだって~」

圭司はそう言いながら、勇斗の手を引いて歩き出してしまった。

「あー ちょっと待ってよ~ やっぱり、私も食べるから~」

結局、私は、圭司の手のひらの上で転がされている気もするけれど…

まあ、いいや
今日のところは、ソフトクリームで手を打ってあげよう

私は心の中で呟きながら、圭司達の背中を追いかけた。




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