婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
楽しく過ごした週末から、三日ほど経った夜のこと…
キッチンで夕食の支度をしていると、一本の電話がかかってきた。
『プルルル プルルル』
あー はいはい
ちょっと待って下さいね~
なんて呟きながら、ハンバーグをこねていた手を急いで洗っていると、勇斗が電話に出てしまった。
『もちもち~ もちもち~』
あー
取られちゃったか…
最近、勇斗は電話が鳴るとこうして先に出てしまう。
と言っても、相手と話しが出来る訳でもなく、ただひたすら『もちもち』を繰り返すだけなのだけれど…
「ただいま~」
と、ちょうどそこに、圭司が会社から帰ってきた。
助かった!
いいところに…
「圭司 お願い! 勇斗の電話取り上げて! 私、手がベトベトなの…」
「えっ? あー 了解」
私の言葉で、すぐに状況を理解した圭司は、素早く勇斗から受話器を取り上げ電話に出た。
「失礼しました 瀬崎です… もしもし? もしも…あっ…」
「切れちゃた?」
ゆっくりと受話器を置く圭司にそう尋ねると…
「うーん なんか俺の声を聞いて、慌てて切った感じ?」
圭司はそう言って、口元に手を当てながら考え込んだ。
「じゃあ 間違い電話かもね 非通知だから確かめようがないけど… まあ 本当に用事がある人なら、きっと、またかかってくるよね…」
「……」
「圭司?」
「……あいつなんじゃねーの?」
圭司がボソッと呟いた。
「えっ 松井くんのこと? まさか… 自宅の電話番号なんて教えてないし…」
「そんなの、昔の同僚にでも聞けばすぐに分かるだろ? …やっぱり、なつのことが忘れられないんだよ だから、言っただろ?」
「えー 圭司の考え過ぎだよ… 松井くん、そんな感じじゃなかったもん」
私は首を横に振って、圭司の言葉を否定した。
だって、ちゃんと幸せ摑むって言ってたし…
「散々騙されてきた奴がよく言うよな いい加減さ、おまえも懲りろよ!」
途端に、圭司の口調が厳しくなった。
私も、そう言われてしまうと、もう何も言い返せない。
「じゃあ 私…どうすればいいの?」
「どうもしなくていいよ…俺が話つけるから あいつの携番だけ教えて?」
「えっ もう、登録消しちゃたよ…」
「バカだな 何で消しちゃうんだよ」
「いや だって… 圭司が言ったんだよ…早く消せって」
「そんなこと、言って いや… 言ったか」
自分でも思い出したのか、圭司は頭を抱えながら大きくため息をついた。
そう
確か携番ショップからの帰り道、圭司は確かに言ったのだ。
『今度あいつと電話なんかしてたら本気で怒るからな なつもあいつの連絡先、ちゃんと消しとけよ』って、
「分かった もう いいよ とりあえず、家の電話は非通知からはかからないようにしとくから… なつも、知らない番号の電話には絶対出るなよ」
「うん 分かった」
とは言っても、正直この時の私は、それほど気にはしていなかった。
圭司が過剰に心配しているだけなのだと…
けれど、この後すぐに、この電話がただの間違い電話なんかじゃなかったと思い知らされることとなる。