婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
「ただいま」
耳元で圭司の声がして、私はゆっくりと目を開いた。
いつの間にか、私は勇斗と一緒に寝てしまったようだ。
もう、外はすっかり日が落ちている。
ふと、昼間のことを思い出し、私はベッドから身を起こして、圭司の胸に抱きついた。
「あのね、圭司… 今日ね」
「なつの携帯に、非通知からかかってきたんだろ?」
「えっ 何で知ってるの?」
圭司に言い当てられて、私はキョトンと首を傾げた。
「それかけたの俺だから… 昼間になつの携帯の設定が気になって、試しにかけてみたんだよ やっぱり非通知からかかちゃうんだな 後で、ちゃんと直してあげるよ」
「な~んだ あれ、圭司だったの~? も~ それなら、一言教えてくれればよかったのに! 凄く怖い思いしたんだからね」
「なつこそ、何で俺に報告してこなかったんだよ? 怖い思いしたんだろ? あの後も、何で『大丈夫』なんて送ってきたの? ん どうして?」
圭司は私の頰を両手で挟みながら、問いただすようにそう言った。
「だって 圭司、仕事中だし、心配して気にしちゃうんじゃないかと思ったから… ちゃんと帰ってきてから言おうと思ってたの」
私の言葉を聞いて、圭司ははーとため息をついた。
「それじゃ、なんかあったときに手遅れになるだろ? 今朝のニュース見たか? 若い主婦と2歳の子供がストーカーの男に刺されたんだぞ そんなことになったらどうするんだよ…」
「えっ でも…」
いくら何でも大袈裟だよって言おうとしたけれど、真剣な圭司の顔を見たら何も言えなくなった。
「ごめん… 俺もちょっとおかしいよな でも、なんか無償に怖いんだよ… なつと勇斗になんかあったら俺は…」
圭司はそう言って、私を強く抱きしめた。
「圭司…」
私を抱きしめる圭司の手が微かに震えているのを感じて…
私は圭司の胸の中で、ごめんねと呟いた。
……
次の日のワイドショーでは、朝からストーカー殺人の話題でもちきりだった。
どうやら、捕まったストーカー男(22才の大学生)は昔のバイト先の同僚だった被害者女性(26才の主婦)に四年前からずっと好意をよせていたとのことで…
何度か告白してフラれているにも関わらず、彼女が結婚し子供ができた後も、後をつけたり、電話をかけたりしてストーカー行為に及ぶようなった。
被害者の女性はずっと無視し続けていたけれど、とうとう男は夫の留守中に自宅に押し入って、2歳の娘と被害者の女性を刺してしまったという事件だ。
圭司には、これが私と松井くんにでも重なってしまったのだろうか…
いや、もしかしたら、ストーカーという響き自体が、圭司を不安にさせてしまうのかもしれない…
「まんま~」
テレビを見ている私の元へ、勇斗がチョコぴーを持ってやってきた。
「あ~ また 勝手に取ってきて~ しょうがないな 少しだけね…」
私が箱を開けて、勇斗の手のひらにチョコぴーを三つだけ乗せると、勇斗は嬉しそうに笑った。
確かに、こんな幸せな日常が、ある日突然奪われてしまうかもって考えたら、私だって恐ろしくなる…
ちゃんと圭司を安心させてあげないとな…
私はスマホを出して、圭司にラインを送った。
『何も異常ないから大丈夫だよ 今は、勇斗のおやつタイムです』
一緒に、チョコぴーを美味しそうに食べる勇斗の写真をのせると、すぐに既読がついた。
返信は来ないから手が放せないのだろうけれど、どんなに忙しくても、ちゃんと私からのラインをいつも気にしてくれてたんだなあと、しみじみと感じた。