婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
3時過ぎになって、勇斗がお昼寝から目を覚ました。
よし、そろそろ、買い物にでも出かけようかな
朝から降っていた雨も、ちょうど上がったみたいだし…
私は出かける準備をして、圭司にラインを打った。
『駅前のスーパーに行ってくるね』
すぐに既読がついて、返信が返ってきた。
『了解 気をつけてな』
そして、いってらっしゃいのクマのスタンプが…
私はクスっと笑いながら、携帯をバックへとしまった。
マンションを出て少し歩いた所で、勇斗がベビーカーから降りてしまった。
「えー 勇斗、歩きたいの~?」
私がそう尋ねると、勇斗はコクンと頷いて一人でトコトコと歩き始めた。
「あー 待って待って! ママと手を繫がないとダメでしょ~」
私は空のベビーカーを押したまま、勇斗の手を慌てて摑んだ。
勇斗はここ最近、こうしてベビーカーを降りては歩きたがる。
大人しく、まっすぐに歩いてくれれば何も問題はないのだけれど、一歳児には到底無理な話で…
何かを見つける度に、あっちにフラフラ、こちっにフラフラ… なかなか、前に進まないのだ。
もちろん、そんなに長くは歩けないから、すぐにベビーカーへと戻ってはくるのだけれど…
「あー! ワンワ~ン!」
早速、向かいから歩いてきたチワワを見つけ、勇斗は興奮気味に指をさした。
「本当だ ワンワン、可愛いね~」
まだ、子犬でお散歩にも慣れていないのか、プルプルと体を震わすチワワ…
怖がらせちゃダメだよと言おうとした途端、勇斗は私の手を振り解いて、チワワの元へとかけだしてしまった。
『キャン!キャン! キャン!キャン!』
その瞬間、驚いたチワワが勇斗に向かって吠え出した。
勇斗の方もビックリして、慌ててUターンし、私の足へとしがみついてきた。
「あら~ 坊やのこと驚かせちゃったわね~ ごめんなさいね~ この子、怖がりですぐに吠えてしまうのよ…」
飼い主のおばあちゃんがすまなそうに謝ってきた。
「いえいえ こちらこそ、すみません ほら 勇斗もワンワンにごめんなさいしよーね」
私はメソメソと泣いている勇斗の頭をコクリと下げた。
チワワが行ってしまうと、すぐに勇斗は気を取り直し再びトコトコと歩き始めた。
勇斗は好奇心旺盛なのだけれど、もともと気が小さいせいでこういうことが多い。
顔は圭司そっくりなのに、性格は誰に似てしまったのだろうかと不思議に思ってしまう。
…って
やっぱり、私なのかな?
いや
案外圭司だって、小さい頃は弱虫だったのかもしれないし
なんて…そんな事を考えながら信号待ちをしていると、勇斗が後ろを向いて手を振っているのに気がついた。
「ん? 勇斗 誰に手を振ってるの?」
私も振り返って、勇斗が手を振る先を見たけれど、そこには誰もいなかった。
なんだろう?
通りすがりの人が、勇斗を見て手を振ってきただけかな?
でも、何となく、誰かの視線を感じるような…
気のせいかな?
と、そこで信号が変わり、私はすっきりしないまま、スーパーへと歩き出した。