婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
「それってさ 所詮ネットの情報だろ? 歯並びは分かるけど、別におしゃぶりがそこまで悪影響とは思えないけどな… まあ 気になるなら、ぐずってどうしようもない時だけって決めれば問題ないんじゃない? 要は節度をもてってことだろ?」
「うーん でも やっぱり、おしゃぶりに頼るのは親として良くない気がする…」
頑なな私に、圭司がため息をついた。
「ホント なつって頭堅いよな… 夜泣きとか辛くないの? さっきだって、泣きそうな顔してたじゃん… いい加減、手を抜くことも覚えないと自分が潰れるよ? なつはもともと要領の良い方じゃないんだし…」
圭司もだいぶイラついてきたのか、私の痛い所をつき始めた。
「そんな言い方しなくたっていいじゃない! 私は、ただ勇斗のことを思って…」
「ふえーん ふえーん」
私達の言い争いにびっくりしたのか、勇斗がおしゃぶりをぷっと吐き出して泣き声を上げた。
「なつ いったん保留な… 俺、勇斗のこと見てるから、なつはご飯の準備しちゃえば?」
「うん… 分かった…」
勇斗が眠りについて、私達もようやくベッドへと入った。
「なつ 起きてる?」
「うん…」
その声に振り向くと、圭司は真剣な目で私を見た。
「さっきはごめんな 気に障るような言い方して… 実は俺さ 会社で今度立ち上げる新ブランドのプロジェクトリーダーに抜擢されたんだよ… 期間限定だけど、一応リーダーっていう立場だから、今までみたく自分の仕事だけ終わらせて、さっさと帰ってくるって訳にはいかなくなる。だから、なつに負担かけちゃう分、なつが少しでも楽になればって思ったんだよ。なつが今、いっぱいいっぱいなのも見てて分かってたし…」
圭司の言葉に、頑ななだった私の心も素直になれた。
「私こそ ごめんね ムキになっちゃって… 圭司が言う通り、節度をもてばいいだけのことだよね うん おしゃぶりに助けてもらうのもいいかもしれない それに、仕事が大変になる圭司を、夜泣きに付き合わせたくなんてないし… 今日から、夜ぐずったら、試してみるから…」
私がニコリと微笑むと、圭司はふっと笑って、私の頰に手を触れた。
これは圭司のキスのサイン…
私はそっと目を閉じた。
「ありがと… おやすみ なつ…」
圭司は私のおでこにひとつだけキスを落とし、すぐに唇を離した。
えっ…
おでこ?
ぱっと目を開くと、すでに圭司は目を閉じて、眠る体勢に入っていた。
久々に熱いキスを期待していた私には、かなりの肩透しだったけれど…
圭司にキスをねだれる筈もなく…
その夜、私は何とも言えないモヤモヤを抱えながら、眠りにつく羽目となった。