婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
次の日、金沢から新幹線で戻ってきた私達は、勇斗を迎えに行った後、早速、圭司の言う『犯人』の所へとタクシーを向かわせた。
圭司は『犯人』のことを、詳しくは教えてくれなかったけれど…
きっと、圭司に好意をよせている女性の誰かなのだろう…
「着いたよ なつ ここの二階だから…」
ハッとして窓の外を見ると、タクシーは古いアパートの前に止まっていた。
私は勇斗と一緒に車を降りて、アパートを見上げた。
見たところ築30年は経っていそうな、お世辞にもきれいとは言えないアパートだ。
「ねえ 圭司 ホントにここなの?」
「どういう意味?」
圭司は私の質問に眉を顰めた。
「だって、とてもここに女の人が住んでるようには見えないから…」
「俺、女だなんて言ったっけ?」
「違うの? 私、今日は修羅場を覚悟で来たんだけど…」
「修羅場? あー 違うよ それに女じゃなくて男だし」
「えっ! ゲイってこと?」
「なんでそうなる…」
圭司は苦笑いを浮かべた。
「えっ…と」
「まあ とにかく、会ったらなつも分かるから… とりあえず、付いてきて」
圭司はそう言うと、勇斗を抱き上げ、私の手を引いて階段をのぼり始めた。
結局、うやむやのまま、玄関の前まで来てしまった。
一体、どんな人が出てくるのだろうか…
圭司が玄関のチャイムを鳴らすと、私の緊張は一気にピークへと達した。
私は固唾を呑みながら、じっとドアを見つめた。
そして、三回目のチャイムでようやくドアが開けられたのだけど…
なんと、顔を出したのは…
もう、何年も会っていない圭司のお父様だった。
「えっ!! 嘘… おじ様!?」
「お おまえ達…」
「あー! パッパ パッパ~」
圭司以外の三人が一斉に声を上げた。
軽くパニック状態の中、圭司が勇斗に尋ねた。
「なあ 勇斗 勇斗にたい焼きくれたのはこの人か?」
すると、勇斗はコクリと頷いて、再び、おじ様を指さしながら「パッパ~パッパ~」と声を上げた。
そんな勇斗を見て、おじ様は気まずそうに顔を伏せた。
「親父 ちゃんと説明してもらうから… 中、入るぞ」
そう言って、圭司は私と勇斗を連れて、部屋の中へと入っていった。