婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
「どういうつもりだよ なつの後つけたり、勇斗を連れ出したり… なつがどんな思いしたか分かってんのか? ふざけんなよ!」
圭司の低い声が部屋の中に響いた。
「すまなかった…」
おじ様が謝ると、圭司はふーとため息を漏らした。
「また、借金でも作ったか? まさか、なつにこっそり頼もうとしたんじゃねえだろうな?」
「いや そうじゃない!」
「じゃあ 何なんだよ」
圭司の言葉に、おじ様は黙り込んでしまった。
「あの… おじ様、もし、お金のことで困ってるのならちゃんと言って下さいね」
「違う 借金じゃないんだ… ただ、孫の顔が見たかっただけで… でも、もう、会わせてもらったから気が済んだよ なつさん、すまなかったね…」
弱々しい声でおじ様がそう言った。
「おじ様…」
「あっそ じゃあ、気が済んだなら、もう二度となつと勇斗に近づくなよ 親子の縁だって切ってんだから」
「ちょっと、圭司!」
勇斗が首を傾げながら、圭司とおじ様の顔を交互に見つめていた。
そう
おじ様と圭司は、もう何年も絶縁状態だったのだ。
私達が結婚した当初は、真面目に生きていくと誓ってくれたおじ様だったけれど、それから間もなくして、再びギャンブルに手を出し、500万もの借金を作ってしまった。
圭司はおじ様の借金を肩代わりしたけれど、ギャンブルに再び手を出してしまったおじ様に激怒して、それ以来、親子の縁を切ってしまったのだ。
「ああ わかったよ もう、おまえ達の前には二度と現れないよ 悪かった…」
おじ様は悲しげな顔でそう答えた。
「あの おじ様… 勇斗ならいつでも」
「なつ もう 行くぞ」
私は強引に腕を引っ張られ、そのままおじ様のアパートから連れ出されてしまった。
帰り際、勇斗だけは、無邪気な顔でおじ様に手を振っていたけれど…
………
こうして、私の『ストーカー事件』は無事解決となったのだけれど、何とも後味の悪い終わり方だった。
「ねえ 圭司… ホントにこれで良かったの?」
ちょうど、ベッドへ入って来た圭司にそう尋ねた。
「何が?」
「おじ様のことだよ… きっと、寂しかったんじゃないのかな… このまま、独りきりにしていいの?」
「昔から、親父は独りで好き勝手にやってきたんだ 借金ができた時だけ帰ってきては母さんを苦しめてさ… 一度やったチャンスだって、あっさりと裏切った。今更、何言ったって、同情する気にもなれないよ」
キッパリと言い切る圭司…
確かに、おば様のことを思えば、圭司が許せないと思う気持ちも分かるのだけれど…
「でも、おじ様もきっと反省してると思うよ それに、勇斗をすごく優しい目で見てたじゃない きっと、勇斗のおじいちゃんになりたいんだよ 勇斗だって、『パッパ~パッパ~』って懐いて…って そう言えば、何で勇斗はおじ様のことを『パッパ~』って呼ぶんだろ?」
話がそれてしまったけれど、これだけは不思議で仕方がなかった。
ふと、考え込んだ私に圭司が言った。
「『パパのパパ』って言ってんだよ 勇斗は…」
「えっ? 『パパのパパ』? あっ おじいちゃんってことか… でも、なんで…」
「多分、勇斗に声かけるとき、怖がらせないように親父がそう言ったんじゃないの? 自分をおじいちゃんとは名乗れずに…」
「なるほど…」
ようやく謎が解けて、スッキリしたけれど…
ん?
でも、ちょっと待って…
「ねえ、圭司は、そのこと、いつから気づいてたのよ」
「あー 割とすぐかな… たい焼きも、俺、子供の頃は親父によく食わされてたし」
今頃になって、しれっと答える圭司…
「もー だったら、もっと早く言ってくれたら良かったじゃない! せめて関係のない松井くんの所に行く前に…」
「いや、親父のことは確信があった訳じゃないし… 松井じゃないこともちゃんと確かめたかったんだよ… それに親父の件に関係なく、松井のとこには一度行っときたかったしな…」
「何で?」
「何でって…」
圭司はジロリと私を睨んで、ため息をついた。
「誰かさんが余計な心配させたからだろ? だいたいなつはさ、男を甘く見すぎなんだよ すぐに、男の言うことを鵜呑みにして、信じるだろ? この前の電話でよく分かったよ… どうしてなつがいつも男に騙されるのか… いいか? もっと、相手を疑ってかか…んっ」
もう、この煩い口は塞いでしまえ…
私は圭司の言葉をキスで止めた。
つもりだったけど、圭司はすぐに主導権を奪うように、私を下に組み敷いた。
「ん… ふっ あっ…」
「いいよ お説教は体にしてあげるから その代わり覚悟しろよ なつ」
圭司はフッと意地悪な笑みを浮かべて、そう言った。
「えっ ちょっと待っ あっ…」
結局、おじ様の話は中断したまま、私は何度も激しく圭司に抱かれたのだった。