婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
それから1週間が過ぎた。
圭司は何事もなかったように過ごしているけれど、私はあの日以来、おじ様のことが気になって仕方なかった。
「ねえ 圭司…」
鏡の前でネクタイを締めている圭司に声をかけた。
「ん… 何?」
「おじ様のことなんだけどね…」
「あー 無理…」
おじ様の名前を出した途端、圭司は何も聞かずにそう返してきた。
「いやいや でもね 今のままじゃ良くないと思うよ ホントは圭司だってそう思ってるんでしょ? もう一度おじ様と」
「ごめん 俺、もう会社行く時間だから…」
「えっ まだ、全然早いじゃない」
「今日は、夜、先食べてていいよ ちょっと遅くなるから それじゃ なつ いってくるな」
圭司は一方的にそう言うと、私にキスをして家を出て行ってしまった。
「ちょっと、圭司…」
ダメだ…
全く取り付く島もない
私はパタンと閉まったドアを見つめながら、玄関でため息をついた。
「まんま~」
「あっ おはよう 勇斗~ おっきしたの~?」
目を覚ました勇斗が、寝室からトコトコと歩いてきた。
私は勇斗を抱っこして、リビングへと戻った。
勇斗は甘えるように、私の胸にピタリと顔をくっつけた。
「よしよし いい子いい子 今日は何して遊ぼうね~」
窓の外は生憎の雨…
公園遊びは無理そうだ。
「うーん どこ行こっか~ 児童館もお休みだし… 今日は大人しく家で… あっ」
ふと、そこで、おじ様の顔が浮かんだ。
「ねえ 勇斗 今日は『パパのパパ』のとこに行ってみる?』
「パッパ~パッパ~?」
「そう、『パパのパパ』… ママと会いに行こっか?」
勇斗は私の言葉にコクンと頷いた。
きっと、圭司は怒るだろうけど…
やっぱり、ほっとけないもの
たった一人の圭司のお父様だから…
……
タクシーでおじ様のアパートへとやって来た私は、勇斗を抱きながら玄関のチャイムを鳴らした。
けれど、何度鳴らしても、おじ様の出てくる気配はない。
出かけちゃってるのかな…
仕方ない
また、明日にでも出直すか
そう諦めて帰ろうとした時、ガチャリとドアが開けられた。
「おじ様…」
「………えっ!!」
顔を出したおじ様は、私と勇斗を見るなり、驚いた顔で固まってしまった。
「あー! パッパ~パッパ~」
そんなおじ様を見て、勇斗が声をあげた。
「すみません おじ様 突然、来てしまって…あの、ちょっとお邪魔してもいいですか?」
「えっ あっ ああ…」
おじ様は私達の突然の訪問に戸惑いながなも、部屋へと通してくれた。
………
「悪いね 何もなくて… 冷たいお茶でもいいかい?」
おじ様は冷蔵庫からペットボトルを取り出すと、頭をポリポリとかきながら、小さなちゃぶ台の上にポンと置いた。
「あっ すみません ありがとうございます」
ペコリと頭を下げると、勇斗も真似をしてお辞儀をした。
「ハハハ お利口だな… 勇斗くんは」
目を細めて笑うおじ様は、優しいおじいちゃんの顔だった。
「あの…おじ様」
「ん? なんだい?」
「あっ あの…私達とちゃんと家族になりませんか? 圭司なら、私が説得します… だから、もう一度、圭司と親子としてやり直してもらえませんか?」
「なつさん…」
おじ様は私の言葉に俯いてしまった。