婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
「おじ様?」
「なつさん 気持ちはありがたいけど… あいつは私の顔なんて二度と見たくもないだろう それくらいのことをあいつにしてしまったからな。もう、このままでいいんだよ」
「でも、おじ様」
プルルルル プルルルル
と、そこで突然…
おじ様の家の電話が鳴り出した。
プルルルル プルルルル
けれど、おじ様は渋い顔をしたまま、一向に出ようとしない…
「あの おじ様、電話ですよ?」
「いや どうせイタズラ電話だから」
「えっ… でも、出てみないと」
「いいんだよ ほっとこう…」
電話が鳴り止むのを、じっと待っているおじ様を見て、ふと思った。
もしかして、おじ様は借金に苦しんでいるんじゃないだろうかと…
「おじ様、この電話って… 取り立ての電話なんじゃないですか?」
「えっ 違うよ これはそんな電話じゃなくて、ホントにイタズラ電話なんだよ」
おじ様は首を振って、私の言葉を否定するけれど…
もし、借金があるのなら尚更ほっとく訳にはいかない
「おじ様、ごめんなさい! 私、出ますね」
「あっ なつさん、出ちゃダメだ!」
制止するおじ様を無視して、私は電話を抱えてトイレへと駆け込んだ。
「もしもし 瀬崎ですが…」
電話の向こうからは、落ち着いた男性の声が返ってきた。
『もしもし、瀬崎圭司さんのご家族の方ですか?』
えっ 圭司?
圭司がどうかしたのだろうか…
「はい 妻…ですが…」
『ああ 奥様ですね 私、弁護士の田辺というものですが、実はご主人の車が事故を起こしてしまいまして…」
「えっ!! 事故!? あ あの、主人は大丈夫なんでしょうか!」
思ってもみない事態に、私は気が動転して頭の中が真っ白になってしまった。
「はい ご主人は無事ですよ。ですが…相手の方に怪我を負わせてしまいまして… 先ほど私と一緒に病院の方へ謝罪に行ってきたんですが…」
弁護士さんは、言いにくそうにそこで一旦言葉を止めた。
「はっ はい…」
そして、沈黙の後、静かにこう言った。
「実は、相手の方が極道の方だったんです。」
「えっ 極道!?」
極道というフレーズに、一気に不安が押し寄せた。
「はい、恒星会の幹部の方でして… 怒った組員達がご主人を組の事務所へと連れて行ってしまいました…」
「そんな… あっ あの 主人は無事なんでしょうか!」
「はい… 今のところは… ただ、示談金として300万用意しろと言っています。ご用意できますか?」
「300万… 分かりました すぐに用意します! えっと、それで私はどこに行けば…」
「では、桜川駅のコンビニの前に現金を持って来て頂けますか? そこで私と待ち合わせしましょう…」
「はい 桜川駅のコンビニですね 分かりました!」
急いで電話を切ってドアを開けると、目の前におじ様が立っていた。
「おじ様! ちょっと勇斗を預かっててもらえますか? 私、すぐに銀行に行って、桜川駅のコンビニに行かないと…」
血相を変えながらそう言うと、おじ様は私の腕を掴んできた。
「なつさん、落ちつくんだ… 一体何を言われたんだ?」
「圭司が事故で… ヤクザに… とっ とにかく時間がないんで スミマセン! 勇斗をお願いします!」
私はおじ様を振りきって、アパートを飛び出した。