婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
桜川駅に着くと、既にコンビニの前には、眼鏡をかけたインテリ風の男が立っていた。
恐らく、あの男が電話をかけてきた男なのだろう…
私は電柱の影に隠れながら、どうするべきかと頭を抱えた。
銀行に駆け込むまでは、一刻も早くお金を届けようと無我夢中だったけれど…
銀行のカウンターに貼られていた『振り込め詐欺にご用心』というポスターを見て気づかされた。
振り込めともオレオレとも言われてはいないけれど、まさにこれがそうなのではないかと…
さっきは、慌てていたせいで冷静な判断ができなかったけれど、よくよく考えてみれば怪しい話だ。
それなのに、こんな日に限って、私は携帯を家に忘れてきてしまった。
これじゃ、本人に確認の取りようもない…
さっき通帳を取りに戻った時、どうして気づけなかったのかと自分を恨めしく思う。
どうしよう…
一応、お金はおろしてきたけれど、このまま帰った方がいいのかな
いや…
でも、これがもし詐欺ではなかったら、ヤクザに連れて行かれたという圭司の身が非常に危ない…
やっぱり、私、行かなくちゃ!
覚悟を決めて、私は男の前に飛び出した。
「あの スミマセン… 弁護士さん…ですか?」
私が恐る恐る尋ねると、男はスーツのポケットから自分の名刺を取り出して、もっともらしくお辞儀をした。
「私、ご主人の会社の顧問弁護士をしております田辺と申します。お待ちしておりました。」
これも、全て演技なのだろうか?
私は受け取った名刺を不安げに見つめた。
「早速ですが、奥様… 示談金の300万はご用意頂けましたか?」
「はい 持って来ましたけど…」
私がそう答えると、男はホッとした顔を見せた。
「そうですか。では、私が恒星会の事務所に行って上手く話をつけてきますので、300万はお預かりします。奥様は危険ですからご自宅で待機していて下さい。」
やっぱり、この人…物凄く怪しい
きっと、受け取ったお金を持って逃げる気なんだ。
「あの 私も一緒にその恒星会の事務所まで行ったらダメですか? ちゃんと主人の無事を確かめたいですし…」
そう言えば、慌てて断って来るかと思ったのだけれど…
男は笑顔を見せながら、こう返してきた。
「分かりました そうですよね では、私について来て下さい… この裏に車を止めてありますので…」
そして、戸惑う私の腕を掴んで男は足早に歩き始めた。