婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
………
警察署に着くと、私達は取り調べ室に通された。
「ご主人は、どうしてあの場所に向かったんですか?」
刑事さんは一通り私から事情を聞き終えると、圭司に向かってそう尋ねた。
「父が職場に電話してきたんです。妻がオレオレ詐欺に騙されて家を飛び出して行ったと… 慌てて桜川駅に向かったら、ちょうど妻が男に連れられて路地に入って行く所が見えたので…」
「なるほど… ありがとうございます だいたい事情は分かりました。あー それから… お父様もオレオレ詐欺の被害にあわれていたみたいですね。恐らく、それで詐欺グループから目をつけられていたんでしょう」
「「えっ?」」
圭司も私も思わず顔を見合わせた。
「お父様から聞いていませんか? 確か500万だったかな… 被害額は」
刑事さんは手元の資料をめくりながら、圭司にそう答えた。
「もしかして、それ、五年前ですか?」
「ええ。そうですね 犯人は息子さんになりすまして、会社の金を使いこんだから自殺すると泣きながら電話してきたそうです。子を思う親の弱みにつけ込むなんて許せませんよね 全く…」
「そうでしたか…」
「まあ、今回は奥様が無事で良かったです。今後は怪しいと思ったら、すぐに警察に相談してください。それでは、もう結構ですよ。お気をつけてお帰り下さい。ああ、それと、ご主人には犯人逮捕の感謝状が出ますから…」
ニコリと笑って、刑事さんは部屋を出て行った。
圭司は暫くの間、ぼう然としていた。
「圭司…」
「ああ… とりあえず出よっか」
…………
私達は警察署を出て、おじ様のアパートへと向かった。
「なつさん、大丈夫だったかい?」
玄関のチャイムを鳴らすと、おじ様が心配そうな顔で飛んできた。
「おじ様 ごめんなさい… 心配かけてしまって」
「いや 無事で良かったよ」
ホッとするおじ様を見て申し訳なくなる。
「親父、話がある 上がっていい?」
「あっ ああ…」
圭司の言葉に、おじ様は緊張した表情で頷いた。
部屋に上がると、勇斗がニコニコしながらたい焼きを食べていた。
「あー まんま~ ぱっぱ~」
「勇斗~ ごめんね! 急にお留守番させちゃって」
私は勇斗をぎゅっと抱きしめた。
圭司も勇斗の頭をよしよしと撫でて優しく笑った。
ちゃぶ台の方に目をやると、割り箸で作られたゴム鉄砲や小麦粉を水に溶かした粘土など、様々な手作りの玩具が並べられていた。
おじ様は、勇斗の為にたくさん玩具を作って、一生懸命遊んでくれていたようだ。
「悪いね 冷たいお茶しかないけど…」
おじ様はちゃぶ台の上を片しながら、朝のようにペットボトルを置いてくれた。
「親父さ… 何で五年前、詐欺に合ったことを言わなかったんだよ… ちゃんと理由言わなきゃ、またギャンブルで作った借金なのかと思うだろ こっちは」
圭司が真剣な顔でおじ様を見つめた。
「いや… オレオレ詐欺に騙されたなんて何だか言い出し辛くてな… それに、二度と迷惑かけないって約束したのに、結局、おまえのとこに取り立てが行ってしまっただろ? 申し訳なくて会わす顔もなかったし、親子の縁を切られても当然だと思ったから…」
「あのさ、親父 俺が怒ってたのは借金を肩代わりさせられたからじゃないよ… 親父が母さんの墓の前で誓った言葉を簡単に裏切ったと思ったからだよ。でも、親父はちゃんと守ってたんだろ? 母さんに償う為に二度とギャンブルに手を出さなで真面目に生きてくっていう約束を… だったら、何でそう言わなかったんだよ! あの時、ギャンブルじゃないって、一言言ってくれれば」
「でもな、理由はどうであれ借金を作ってしまったことに変わりはないだろ…」
「全然違うよ ギャンブルで作った借金と俺のことを助けようとして作った借金が同じな訳ないだろ? 少なくとも俺にとっては…」
圭司は真っ直ぐにおじ様を見た。
「そうだよな すまなかった… 黙ってたことで返っておまえを傷つけていたんだな 悪かったよ 実はな、おまえに今まで借りてきた金もちゃんと返すつもりで、少しずつだけど貯金してるんだ。全額貯まったら、必ずおまえのところに返しにいくから… その時が来たら、もう一度と親子としてやり直させてくれないか?」
頭を下げたおじ様を見つめながら、圭司はふっと笑った。
「もう、いいよ 今度の母さんの命日、一緒に墓参りに来たら、昔のことも含めて全部チャラにしてやるから 親父の金が貯まるのなんて待ってたら、一生親子には戻れなそうだからな 貯めた金は自分の為にでも使えば? なつと勇斗も遊びに来るのに、こんな何もない部屋じゃしょうがないだろ? せめてエアコンぐらいつけろよ…」
圭司は少し照れながらそう言った。
そんな圭司の言葉に、おじ様の目から涙がこぼれ落ちた。