婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
~。~。~。
ふと気がつくと、そこはホテルのバーだった。
『お待たせしました。ブルーハワイです…』
バーテンダーが、綺麗なブルーのカクテルを置いた。
あれ? 私、こんなの頼んだっけ?
それに、どうしてこんな場所にいるんだろう?
全く、覚えてないんだけど…
まあ、いっか
ムシャクシャして、なんだか今日は飲みたい気分だったから…
私はグラスを手に取り、一気にカクテルを流しこんだ。
あれ?
どうしてだろう…
全然、アルコールの味がしないんだけど…
不思議だなあ…
『スミマセン おかわり下さい』
もう、これで何杯目だろうか…
今日はいくら飲んでも飲み足らない。
普通なら、絶対酔っぱらってる筈なんだけど…
『お姉さん、飲み過ぎ… もう、その辺で止めときなよ』
近くの席にいた若い男の子が、私からグラスを取り上げた。
あれ?
この声、どこかで聞いたことあるような…
薄暗い照明の中、男の子の顔をよく見てみると…
えっ 瞬くん!?
うっそ~
信じられない!!
なんと私に声をかけてきたのは、あのサクレンジャーブルーの加藤瞬だったのだ。
『あっ あの 加藤瞬さんですよね! サクレンジャーブルーの!』
興奮状態の私に、瞬くんはにこりと笑って頷いた。
『そうだけど』
うわっ~
本物の瞬くんだ~
この可愛い瞬くんスマイルで、一体どれほどの女性達がキュンキュンしてきたことか…
私なんて、このままキュン死にしそうだ。
『なんだか、夢みたい…』
『うん 夢だからね』
『えっ?』
『いや 何でもないよ』
クスクスと可笑しそうに笑う瞬くん…
とっ、とにかく、せっかく会えたんだから貰うべき物をもらわなくては!
『あの、スミマセン サイン貰ってもいいですか? それから、一緒に写真も撮って欲しいんですけど』
『いいよ』
『うわ~ ありがとうございます。私、瞬くんのファンなんですよ~』
そう言って浮かれながらバックの中をあさっていると、瞬くんが私の手を掴んできた。
『じゃあさ、良かったら僕が泊まってる部屋にくる? 僕もお姉さんのこと、凄くタイプなんだよね』
瞬くんが私の耳元で甘く囁いた。
『えっ…』
これって…
私、口説かれてるの!?
凄~い…
帰ったら美咲ちゃんママに自慢しなくちゃ~
って…いやいや、そうじゃなくって…
ここは、丁重にお断りしなくては…
『あの お気持ちは凄~く嬉しいんですけど、私には大事な夫がいますから… 彼を裏切るなんてあり得ません ごめんなさい』
うん サインとツーショット写真はこの際諦めよう…
私は瞬くんに頭を下げて、席を立ちあがろうとしたのだけど…
『ふーん でも、旦那さんの方は、大事な奥さんのことを裏切ってるみたいだけどね』
瞬くんはそう言って、急にブラックな笑みを浮かべた。
『えっ それ、どういう意味ですか?』
きょとんとする私に、瞬くんは携帯の画像を見せた。
『ここに映ってる人ってさ、さっきお姉さんと喧嘩してた旦那さんでしょ? 女の方は、さっき俺とここで喧嘩別れした彼女なんだけどさ… 当てつけにこんなキスシーン送ってきたんだよね』
私はショックで言葉を失った。
だって、そこに映っていたのは、間違いなく圭司で、相手の女性はモデルのハルさんだったのだから…
「俺、モデルのハルが、めちゃめちゃタイプ」
そうだった…
私、その言葉にカチンときて圭司と喧嘩したんだった。
だからって、こんな形で私を裏切るの?
『旦那さんも酷いよね… ハルの方が声かけたみたいだけど、お姉さんはちゃんと僕の誘いを断ったのにね。だからさ、お姉さんも仕返しに浮気しちゃおうよ お姉さんだって僕のこと嫌いじゃないでしょ?』
瞬くんが私の頬に手を触れた。
私はその手を振り払い、瞬くんをキツく睨みつけた。
『嘘よ 圭司が私を裏切る筈がない… きっと、ハルさんに頼まれて、キスしてるフリをしてあげただけ』
『ふーん そんなに言うなら確かめてくる?』
瞬くんはそう言って、ハルさんから送られてきたメールを開いて私の前に差し出した。
「いい男を見つけたので、今夜は彼に抱かれます。さようなら」
そして、そのメールには、1058号室のルームキーの画像が添付されていた。
私はバーカウンターの上に一万円札を置き、そのままお店を飛び出した。
こんなの何かの間違いだよね?
圭司はハルさんに協力してあげてるだけだよね?
祈るような気持ちで部屋へと向かった。
1058号室を見つけた私は、恐る恐るそのドアを開けて中の様子を伺った。
『はあっ あっ あっ~』
中からは、ベッドの軋む音と女性の甘い声が漏れてきた。
思わず耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込んだ。
大丈夫…
この声もきっと演技の筈だから…
大きく深呼吸して、部屋の中へ…
けれど、次の瞬間、衝撃的な映像が私の目に飛び込んできた。
ベッドの上で、激しく絡み合う裸の男女…
まさしく、それは圭司とハルさんの不倫現場だったのだ。
『いやーーーー!!!!!』
そう叫んだ後、目の前が一気に暗くなり私は気を失った。
「なつ? 大丈夫か なつ!」
薄れゆく意識の中で、私を呼ぶ圭司の声が聞こえてきた。
ゆっくりと目を開けると、圭司が心配そうに私の顔を見つめていた。