婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
見えない敵
勇斗はすくすくと育ち、もうすぐ6カ月を迎えようとしていた。
一時期、酷かった夜泣きも、おしゃぶりのおかげですっかり落ち着いて、今では朝までしっかりと眠ってくれるようになった。
「じゃあ いってきます 今日はちょっと遅くなる。夜にニューヨーク支社との大事な会議があるから… いつもごめんな」
朝の玄関で、圭司が申し訳なさそうにそう言った。
「ううん 大丈夫だよ。仕事頑張ってきてね いってらっしゃい。」
私はいつものように、笑顔で圭司を見送った。
圭司は今、新ブランド立ち上げのプロジェクトリーダーとして毎日遅くまで頑張っている。
それでも、家でできる仕事は持ち帰ってきたりして、私と勇斗のそばに少しでもいられるようにと、気遣ってくれている。
だから、私の方も、勇斗のことは、なるべく圭司に頼らずに頑張ろうと心に決めた。
来月には圭司の仕事も一段落するみたいだし、あと少しの辛抱なのだから…
さてと…
勇斗が眠っているうちに、家のことを片づけてしまおう。
まずは空気の入れ替えだ…
私は書斎のドアを開けて中へと入った。
「あれ? これって…」
私はパソコンの前に置かれた大きな封筒を見つけ、小さく呟いた。
封筒には合同会議資料(東京本社、ニューヨーク支社)と書いてある。
あ! これ、今日の会議の資料だ!
これがないと、きっと、圭司は困るよね…
私は慌てて、圭司の携帯に電話をかけた。
けれど、着信音が机の上から聞こえてきて…
重なった書類を掻き分けてみると、圭司の携帯が姿を現した。
「うそ 携帯も置いて行っちゃったの!?」
もう 何やってるのよ 圭司は…
私は深くため息をつきながら、とりあえず封筒と携帯を持ってリビングへと戻った。
どうしようかな…
やっぱり、届けるべきだよね。
今は勇斗も寝ているし、電車も通勤ラッシュの時間帯だから、すぐには動けないけれど…
とにかく、出かける準備だけでも急がなきゃ…
ただ圭司の会社に行くだけでも、勇斗を連れて電車で外出するのは、それなりに大変なのだ。
まるで一拍旅行にでも出掛けるかのような、大きなバックができ上がった。