婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~

「えっ! もう やめちゃうの? 瞬くんのファン」

いつもの公園のベンチに座りながら、美咲ちゃんママが声をあげた。

「うん 圭司、私が『瞬くん』って呼ぶだけで機嫌悪くなっちゃうし… それに、あんなにヤキモチ妬かれたらね」

「そんなに、ヤキモチ妬かれたの~?」

「そりゃもう… 昨日は大変だったんだから~」

「あー だから、今日はそんなにキスマークがつけられてるのか~ なるほどね」

ニヤリと笑いながら、美咲ちゃんママがそう言った。

「えっ! あっ… ヤダ」

私は慌てて首元を両手で隠した。

そっか うっかりしてたけど、昨日は圭司にあちこち吸いつかれてたんだった…

「アハハ はい これ貸してあげるから巻いときなよ あっちのベンチにいるママ達に噂されたら面倒だしね…」

美咲ちゃんママはそう言って、私の首にストールを巻いてくれた。

「ありがとう…」

「でもさ… 勇斗くんママのとこって、いっつもヤキモチ妬き合ってるよね~ いつまでも新婚みたいな夫婦で羨ましいよ…ホント」 

「えー そうかな お互いがヤキモチ妬きだと、結構、面倒くさいよ… つまらない事ですぐ喧嘩になるしね」

まさに、昨日がそうだった…

「ふーん じゃあ、4月から勇斗くんが幼稚園に行くようになったら、また余計な喧嘩しちゃうかもね…」

「えっ 何で?」 

首を傾げる私に、美咲ちゃんママは少し声のトーンを落としながらこう言った。

「実はいるんだよね… サクラ幼稚園に瞬くん似のイケメン先生がさ… ちょっと待ってね… 今、写真見せてあげるから… あっ ほら、この先生」

「ん?」

美咲ちゃんママが差し出した携帯には、美咲ちゃんちの玲央くんと一緒に、瞬くん似の若い男性がエプロン姿で映っていた。

「ほら、瞬くんに似ててカッコイイでしょ? 健斗先生っていって、去年玲央の担任だった先生なんだけどね もうクラスのママ達もキャーキャー大騒ぎだったよ」

「へー ホントだ 確かに瞬くんに似てる…」

思わず感心しながら健斗先生の写真を眺めていると、美咲ちゃんママがニヤニヤしながら私の顔を覗き込んできた。

「ほ~ら そんな顔で見てたら、また 旦那さんと喧嘩になっちゃうよん 日曜日、サクラ幼稚園の運動会見学に行くんでしょ~? 健斗先生に見とれないように気をつけないとね~」

「いや 別に私は…」

と、言いかけた時、滑り台の方から勇斗の泣き声が聞こえてきた。

『うえーん かえちて~ うえーん』

「えっ 勇斗!?」

何事かと思い、私は急いで勇斗の元へと駈け寄った。

「どうしたの? 勇斗」

私の問いかけに、勇斗は泣きながら滑り台を指さした。

「あっ! あれ、勇斗のだよね!?」

いつの間にか滑り台では、数人の男の子達が勇斗のサクレンジャーを上から滑らせて遊んでいた。

勇斗より少し体の大きな三人組…
恐らく、向かいのベンチでおしゃべりしているママグループの子供達なのだろう。

さっきまで勇斗と一緒に遊んでいた美咲ちゃんや数人の女の子達も、泣き出しそうな表情でその様子を見つめている。

「ねえねえ それ、返してくれるかな? 僕達」

後ろからそう声をあげたのは、美咲ちゃんママだった。

声をかけられた男の子達は、渋々、サクレンジャーを返してきたのだけれど、ボロボロになったサクレンジャーは色んな所が欠けてしまって壊わされていた。

それを見た勇斗は、更に声を上げて泣き出した。

「ねえ 僕達さ 勇斗くんに謝ろっか? 勝手に遊んで壊しちゃったんだよね?」

美咲ちゃんママが、少しキツイ口調でそう言った。

すると、その中の一人の男の子が「ママ~」と言ってベンチの方へと走って行った。

他の二人の男の子達は黙ったままだ。

「何ですか? うちの子達が何か悪い事でもしましたか?」

すぐにムスッとした顔で、三人のママ達が現れた。

「あっ えっと、お宅のお子さん達が、うちの子のオモチャを壊してしまったみたいで… まあ、悪気はなかったと思うんですが…」

「そうなの 大樹?」

「壊してない! こいつが自分でやったんだ! 俺達、悪くない!」

「えっ…!」

思いもしない言葉が返ってきて言葉を失った。

「こう言ってますけど…?」

「そうよね~ 私達もベンチから見てたけど、この子が楽しそうに自分でそのロボット落としてたよね~」

後ろにいたママの一人が、勇斗を見ながらそう言った。

見ていたって…ずっと、しゃべっていたくせに…
確かに私も他人の事はいえないけれど…これはちょっと

「違うよね? 勇斗はオモチャ取られちゃったんだよね? この子達に壊されちゃったんだよね?」

必死に勇斗に尋ねたけれど、勇斗はメソメソ泣いたままで、結局、最後まで何も答えられなかった。

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