婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~

そして、翌朝…

「おはようございます」

悠真くんを連れた永岡さんが、綺麗な顔でニコリと微笑んだ。

「お おはようございます えっと… 今日は宜しくお願いします…」

マンションのエントランスで、私はペコリと頭を下げた。
勇斗じゃないけれど、初めはやっぱり緊張してしまう。
しかも、こんなモデル並みの美人が相手だと尚更…

堅くなった私を見て、圭司がクスッと笑った。

「永岡さん 母親の方も、慣れるまではこんな感じで人見知りなんですが… 仲よくしてやってもらえますか?」

「なっ ちょっ 圭司…」

圭司の言葉に、恥ずかしくて顔が赤くなっていく。
もう、勇斗じゃないんだから…

「フフフ もちろん」

永岡さんはニコリと笑って、私に右手を差し出した。

えっ 握手?
戸惑いながら私も右手を差し出しすと、永岡さんが力強く握ってきた。

「私のことは香奈子って呼んでね 私もなつさんって呼ぶから… 私は先月までずっと海外だったから、逆に馴れ馴れしいかもしれないけど… 親子共々仲良くしましょ!」

「…はっ、はい」

永岡さんは気さくどころか、かなりフレンドリーなママだった。

そして、それを見ていた悠真くんも、勇斗の手を握ってこう言った。

「ぼく、悠真 仲よくしよう 勇斗くん」

もうすぐ3歳になるとは聞いていたけど、こちらも驚くほどハキハキとしたお子さんだ。

ポカンと口を開けていた勇斗も、悠真くんの勢いに流されてコクンと頷いていた。

こうして、私達は、欧米式?の挨拶を済ませて、サクラ幼稚園へと歩き始めた。


…………


幼稚園に着くと、ちょうど年少組の園児達がお遊戯を始めたところだった。

「あっ ポポロン…だ」

勇斗はそう言ってかけだして行った。

ポポロンとは、朝の幼児向け番組に出てくる着ぐるみを来たキャラクターのことで、毎朝、この曲に合わせてポポロンが踊るのだ。

「ほんとだ~ ポポロンのダンスだね~」

ふと勇斗を見れば、軽快なリズムに手足を合わせて踊っている。

「ハハ 食いついてるじゃん! 勇斗」

後ろで見ていた圭司が笑った。

「うん ホント」

凄いよ 勇斗!
悠真くんにも馴染めたし、お遊戯まで始めちゃうなんて、なんだか今日は出来過ぎなくらいだ。

一方、悠真くんは、ポポロンを知らなかったようで座ったまま大人しく観ていたけれど、次のかけっこの競技が始まると興味津々な様子で身を乗り出していた。

「悠真はね、かけっこが得意なのよ…」

香奈子さんが私の耳元でそう言った。

「あー そんな感じがしますね~ 悠真くん、運動神経よさそうだし…」

まあ、勇斗も運動神経なら悪い方ではないのだけれど、なんせ基本怖がりだから…。
高いところも苦手だし…

その点、悠真くんは物怖じせずに何でもこなすタイプに見える。
きっと、今日のかけっこだって一等賞なのだろう…。


『それでは、午前の部はこれで終了となります。未就園児のお子さんの競技は午後の一番目になりますので、1時までにお集まり下さい』

そんなアナウンスが流れ、お昼休憩となった。

私達は幼稚園の隣にある公園に場所を移し、そこでお弁当を広げることにしたのだけれど…

えっ! 何、このサンドイッチ!?

香奈子さんのバスケットから出てきた、恐ろしいほどお洒落なサンドイッチに思わず目を奪われた。

圧倒的にレベルが高い…。

手巻きずしのようにクルッと巻かれたパンの中に、アボカドやらスパムやら、生ハムやらと… とにかく色んな具材が色とりどりに入っていて、更にセンスよく英字新聞のような紙で巻かれているのだ。

おかげで、隣に並べられた私の庶民的なサンドイッチなんて、思い切り霞んでしまっている。

「香奈子さんのサンドイッチ、美味しそうですね 凄くお洒落だし…」

私の言葉に、香奈子さんがありがとうと嬉しそうに笑った。

「良かったら食べてみて… なんか張り切って沢山作ってきちゃったから… はーい どうぞ~」

香奈子さんはそう言って、私達の前にサンドイッチの入ったバスケットを差し出した。

「あっ いいんですか? それじゃ、お言葉に甘えて…」

圭司は早速、香奈子さんのサンドイッチに手を伸ばした。
続いて私もひとつもらった。

「は~い 勇斗くんもどうぞ~」

香奈子さんはそう言って、勇斗にもサンドイッチを手渡してくれたのだけれど…

「いりゃない…」

勇斗は首を振りながら、香奈子さんのサンドイッチを戻してしまった。
そして、「こっちがいい」と言って、私の作ったサンドイッチを頬ばったのだ。

なんだか胸がキュンとなった…。

「も~う 勇斗はバカだね こんな美味しそうなサンドイッチを… スミマセン 香奈子さん」

香奈子さんの手前、謝りつつも、私は勇斗を抱きしめたい気持ちでいっぱいだった。

「ホント、バカだな~ 勇斗は… 凄くうまいのに~」

と、大人の対応を見せる圭司より、よっぽど愛おしい…

「アハハ やっぱりママのには敵わないわよね~ ざ~んねん」

そう言って、香奈子さんはサンドイッチを引っ込めた。

勇斗、ありがとうね…
私は心の中で小さく呟いた。


………


お昼を終えると、勇斗と悠真くんは二人で遊具の方へとかけていった。

もうすっかり、勇斗は悠真くんに心を開いたようだ。
本当にありがたいことだ。

「じゃあ、俺、ちょっと見てくるよ…」

圭司は立ち上がって、二人の後を追いかけて行った。

「うん お願いね~」

なんて、笑いながら圭司を送り出した私の横で…
ボソッと香奈子さんが呟いた。

「いいパパで羨ましいな…」

はっと顔を向けると、香奈子さんは無表情のまま、ただ圭司の背中をぼんやりと見つめていた。









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