婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
………
「二人とも一等賞取れたね~ すご~い!!」
一等の景品をかかえて、戻ってきた勇斗と悠真くん…
私が声をかけると、二人とも嬉しそうに笑った。
悠真くんが圧倒的な速さでゴールした後、勇斗も見事一着を取ったのだ。
勇斗は今まで見せたことのない真剣な顔で走っていた。
「二人ともよく頑張ったわね~ 勇斗くんは、自信持っていいんだよ~ あの子達に勝ったんだから~」
悔しそうな顔で帰って行く大樹くん達を見て、香奈子さんが勇斗に笑いかけた。
「香奈子さんと悠真くんのおかげだよね~」
私はそう言いながら、勇斗の頭をワシャワシャと撫でた。
「ぼく、泣き虫りゃ…ないもん ビリじゃ…ないもん サクレンジャー、壊して…ないもん あいつゅらが壊したんだもん…」
勇斗は大樹くん達の方を見ながら、口を尖らせて今までの悔しさを吐き出すように呟いた。
「じゃあ、それ、ちゃんとあいつらに言ってこい…」
いつの間にか私達の後ろにいた圭司が、勇斗に向かってそう言った。
「悔しかったんだろ? だったら、ちゃんと自分で言い返してこいよ! あやまれって言ってこい!」
圭司は勇斗の肩を両手で掴みながら、真剣な表情で見つめた。
初めは戸惑った顔をしていた勇斗だけれど、覚悟を決めたように頷くと、大樹くん達の方にかけだしていった。
「サクレンジャー…壊したの、あやまりぇ!」
大樹くん達は、突然現れた勇斗に目を丸くした。
ちょうど、大樹くん達のママは、少し離れた場所で他のママ達と話し込んでいて、気づいていない様だ。
「何だよ! 向こう行け!」
大樹くんが睨むと、勇斗はビクッとして俯いてしまった。
そんな勇斗を見て、後ろにいた二人の男の子達が勇斗をからかい始めた。
「こいつ、やっぱり、泣き虫じゃん!」
「泣き虫で弱虫だ~!」
あー もうそろそろ、勇斗も限界かな…。
そう思い、足を踏み出した時だった。
勇斗が顔を上げ、大樹くん達に向かって大声で言い返した。
「ぼく、泣き虫りゃない 弱虫じゃない! サク…レンジャー壊したの、あやまりぇ~~!」
その声を聞いて、大樹くん達のママが駆けつけてきた。
「ちょっと、大樹達… もう、さっさと謝っちゃってよ! ママ達がまた嫌み言われちゃうんだから! ほら」
そう言って、大樹くん達の頭を無理やり下げさせた。
「ごめんなさい」
「ごめんな…さい…」
「ごめんなさい…」
三人ともふて腐れながらも勇斗に謝った。
すると、勇斗は満足したのかクルリと向きを変えて、少し後ろで見守っていた私と圭司の所に戻ってきた。
「勇斗… よく頑張ったね!」
そう言って勇斗の頭を撫でていると、こちらを見ている大樹くんのママと目が合った。
私が軽く頭を下げると、プイっと顔を背けて行ってしまった。
圭司がさっき言った言葉を、相当根に持っているようだ。
来年、きっとあの子達もこの幼稚園なんだよね…
ふーと大きくため息をつくと、圭司が私を見てこう言った。
「大丈夫だよ、なつ… 三人とも、サクラ幼稚園じゃなくて、ヒカリ幼稚園に入るらしいから…」
「えっ? そうなの?」
「さっき、並んでる時、大声で話してたよ… 今日は景品目当てで来ただけだって…」
そっか…
それを聞いて、ようやくホッとした。
「あっ! もしかして、圭司は、幼稚園違うの分かってたから、あんな事言ったの?」
「そりゃ、まあ… いくら俺でも、幼稚園同じになるかもしれない親に、バカ親とまでは言わないよ…」
クスリと圭司が笑う。
「そっか…」
「でも… あいつらのおかげで、勇斗も成長できたよな~ 幼稚園も楽しみだろ? 勇斗」
圭司は勇斗を抱き上げて、顔をすり寄せながらそう言った。
「うん ぼく、悠真くんといっしょに…幼稚園行く…」
「ハハ そうだよね~ 勇斗は悠真くんと一緒に幼稚園行く約束したんだもんね~ って、あれ? 香奈子さん達ってどこ行っちゃったんだろ?」
「あー そう言えばいないな…」
そう、さっきまでは一緒にここにいた筈なんだけど…
私はキョロキョロと園庭のまわりを見回した。
「携帯にかけてみれば?」
「うん、そうだね」
圭司に言われ、バックから携帯を取り出してみると、香奈子さんからラインが入っていた。
『ごめんなさい… 主人の代理人から呼び出されたのでこのまま帰ります。』
「あっ…」
「どうした?」
「うん 香奈子さん、急用で帰ったみたい… 今、離婚のことで大変みたいだから…」
「離婚すんの? 永岡さん」
驚いた顔で圭司が言った。
「あー うん。帰ったらゆっくり話すけど、なんか旦那さんに愛人がいるんだとか…」
「そっか… そりゃ気の毒だな」
「うん、だからね、私も力になってあげようと思って…」
「そっか… でも、あんまり踏み込みすぎるなよ?」
「大丈夫だよ… それより、この後どうする? だいたい様子も見れたし、もう帰る?」
「ん~ そうだな。あっ でも、あれ見てかなくていいの? なつの愛しの瞬くんが踊ってるけど…」
「えっ?」
圭司に言われて園庭を見ると、ちょうど健斗先生が子供達と一緒にダンスを踊っているところだった。
「すげー似てない?」
「あー そうそう、あの先生、加藤瞬に似てるから、毎年ママ達が大騒ぎなんだって。自分の子供より先生の写真ばっかり撮るママもいるって、美咲ちゃんママも言ってた」
「ふーん、なつも見たいなら見てけば?」
と言いつつ、圭司は面白くなさそうな顔だ。
「もう、そんなこと言って、ホントに見て帰ったら、凄~くヤキモキ妬くくせに~ 面倒くさいからここは帰ります!」
「何だよ、面倒くさいって~」
圭司がジロリと私を睨らむ。
「も~ だから~ それが面倒くさいんだって~」
「そう言うこと言うと、くすぐるぞ!」
圭司は勇斗を抱いてない方の手を、私の脇腹に伸ばしてきた。
「なっ ちょっと、やめてよ!」
片手しか使えない圭司の手をガシッと押さえ、仕返しに圭司の背中をバシッと叩いてあげた。
「イッテー 本気で叩くなよ~」
痛がる圭司を見て、勇斗が楽しそうに笑っていた。