婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
悪友~圭司side~

運動会から、一週間が過ぎた頃…

会社からの帰り道、車から永岡さんの姿を見かけた。
彼女はスーツケースを片手に、マンションへの道を歩いていた。

「こんばんは」

助手席側の窓を開けて声をかけると、彼女はピタッと足を止めた。

「あっ、瀬崎さん… どうも」

「もし良かったら、乗っていきませんか?」

そう声をかけたのは、彼女の顔色が随分悪そうに見えたから。

「あー でも、すぐそこだし」

「遠慮しなくていいですよ… どうせ同じとこ帰るんだし」

俺がにっこり笑ってそう言うと、彼女はスミマセンといって助手席へと乗り込んだ。

「実は、悠真を実家の両親に預けて、主人のいる上海に行っていたんです。代理人を通してじゃなくて、ちゃんと本人の口から聞きたかったから…言い訳でも何でも。でも結局、主人は会ってさえもくれませんでした。」

彼女はため息を漏らしながら小さく笑った。

スーツケースを見た時から、何となく事情は察していたけれど…
まさか、旦那に会うことすらできなかったとは…。
浮気しといて、随分酷い旦那だなと気の毒になる。

「今日はゆっくり休んだ方がいいですよ…」

そう声をかけると、彼女はええと頷いて窓の外に視線を移した。

車は5分もしないうちにマンションへと到着した。

車をエントランスの脇に止め、スーツケースを後のドアから降ろすと、彼女はありがとうと言って笑顔で受け取った。

「いーえ、また、落ち着いたら、勇斗やなつとも遊んでやって下さい。」

俺も笑顔でそう言うと、彼女はあっと顔を上げた。

「そうそう… 実はなつさんにずっと連絡できなくて、心配かけ…」

そこで、彼女の言葉が止まった。
そして、次の瞬間、ふらっと体が揺れた。

「危ない!」

俺は咄嗟に彼女の体を抱き留めた。

「大丈夫ですか?」

耳元で声をかけると、彼女はゆっくりと目を開いた。

「スミマセン… ちょっと、目まいがして…」

「あー じゃあ、とりあえず、そこに一旦すわりましょうか」

俺は彼女をエントランスの中にあるベンチへとすわらせた。

「ちょっと待って下さいね。今、なつ呼びますから」

ここは、なつがいた方がいいだろう…
送り届けた後、彼女を一人にするのもなんとなく心配だし…

と、そこで気がついた。

「あ そうだ… 今日、なつは勇斗を連れて実家に帰ってるんだった…」

俺がポツリと呟くと、彼女はフラッと立ち上がった。

「私ならもう大丈夫ですよ… 一人で歩けま…あっ!」

そして、今度は思い切り俺の胸の中にへと倒れ込んできた。

「あー 無理しちゃダメですよ! とにかく、ここで待ってて下さい。車を駐車場に入れたら、また戻って来ますから…」

「はい… スミマセン」

今度は彼女も素直に頷いた。


………


「それじゃ、なんかあったら電話して下さいね。鍵はポストに落としときます… では、お大事に」

彼女を部屋のベッドへと寝かせ、立ち去ろうとした時だった。

「待って… 行かないで」

突然、彼女に腕を掴まれた。

「永岡さん…?」

「私のこと、慰めてくれませんか… 一度だけでいいの。なつさんには絶対内緒にするから…」

彼女は熱っぽく見上げながら、誘うようにそのまま俺の手を引きよせた。

俺はベッドに片手をついた姿勢で、彼女の顔をじっと見つめた。

「あー そっか… どっかで見たことあると思ってたわ」

俺の言葉に彼女はフッと笑った。

「やっと、私のこと思い出してくれたのね? 瀬崎くん」

「そりゃ、さすがに同じこと二回もされればね… 何?これも仮病?」

「そんな訳ないでしょ! こっちは見も心もボロボロなんだから… なかなか私のこと思い出さないから、さっきちょっと思いついたのよ。」

そう言って俺を軽く睨んでいるこの女は、旧姓本宮といって俺の高校時代の彼女、芹香の親友だった奴だ。

と言っても、クラスが一緒だった訳でもなく、高2の途中で転校して行ったから、すっかり忘れていたけれど…

本宮は当時から、そのモデル並みのルックスで男にモテまくっていた。

そんな本宮が一度だけ、俺を誘惑してきたことがあった。
あれは確か、芹香と付き合って間もない頃のことだ。

『ねえ、瀬崎くん… 私ね、彼氏にフられちゃったんだよね… だから、お願い、私のこと慰めてくれない? 一度だけでいいの… 芹香には絶対内緒にするから』

呼び出された体育館の倉庫の中で、俺は本宮に迫られたのだ。

『ごめんね… オレ、今、芹香以外の女に興味ねーんだわ… それに、親友裏切る奴も大っ嫌いなんだよね』

俺がそう言いうと、本宮はフフッと笑って体を離した。

『へー 随分派手に遊んでた割には、意外と一途なんだね…。分かったわ あんたを芹香の彼氏として認めてあげる。その代わり、覚えといて… 芹香を泣かしたら容赦しないから!』

何だかヤケに偉そうに、彼女がそう言っていたのを覚えている。

























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