婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
「まさか、おまえだったとはな…」
俺は深くため息をつきながら、ベッド脇にあった椅子に腰を下ろした。
「ねえ、どうして、芹香と別れちゃったのよ… ロシアに行ったのは聞いてたけど、芹香に似たなつさんを選ぶくらいなら、待ってれば良かったじゃない。なつさんだって身代わりじゃ可哀想よ」
「あのな… 言っとくけど、俺はなつを芹香の身代わりになんてしてないし、なつのことは死ぬほど愛してんだよ」
「ふーん そうなんだ~」
「っていうか、おまえさ、なつに余計なこと言うなよ?」
そう言って睨んだ俺に、本宮はニヤッと笑った。
「余計なこと? それって、ヤンチャ時代の最低な女遊びのこと? それとも、バカップル時代の芹香とのラブラブエピソード~?」
「おまえ、俺にケンカ売ってる?」
「アハッ 冗談よ。そんなに心配しなくても、なつさんには変なこと言わないわよ… 随分おっかないのね…さっきまではあんなに優しくしてくれてたのに…」
「おまえは随分、楽しそうだね… さっきまでは、あんなに具合悪そうだったのに…」
「そうね、おかげ様で、あんたとバカ話してたら、だいぶ目眩も治まってきたわ… たまには息抜きも必要よね」
本宮はベッドの中でベロを出した。
確かに、本宮の顔色は随分良くなったように見える。
これなら、今夜はほっといても大丈夫だろう。
明日には、実家の両親もくるみたいだし…。
「あっそ… そりゃ、よかったな じゃ、どうぞ、お大事に」
そう言って、俺が椅子から立ち上がった時だった。
突然、ガチャと寝室のドアが開き、血相を変えたなつが飛び込んできた。
「やめて! 圭司! 香奈子さんと浮気しないで!」
なつはそう叫びながら、俺にしがみついてきた。
「えっ… なつ!?」
「なつさん…」
「圭司が浮気してるって、お義父さんが…」
ポロポロとなつの頬に涙が伝う。
「違うぞ なつ! 違う違う! 全然、違うから」
なつの涙に動揺して、違うとしか言葉が出てこない。
これじゃ、余計怪しいだろと自分にツッコミを入れながら、助けを求めるように本宮を見た。
「あー なつさん、誤解しないで。私がエントランスで目眩を起こして、部屋まで付き添ってくれてただけだから」
「そうなの、圭司? 浮気じゃないの?」
なつが潤んだ瞳で俺を見上げた。
「そうだよ 俺が浮気なんかする筈ないだろ? バカだな…なつは こんなになつを愛してるんだぞ?」
俺はなつのことを思いきり抱きしめた。
「そっ そっか… ヤダ 私… お義父さんがあんな事言うもんだから、つい…」
「何、オヤジ、来てんの? なつになんて言ったの?」
俺はなつの涙を指で拭いながら、優しく問いかけた。
「あっ… うん 勇斗に玩具買ったからって、朝、連絡くれて、ちょうど今、マンションに来たとこなんだけど…」
言いにくそうに、なつが下を向いた。
「うん、それで?」
「あっ うん… なんか…来る時に、下のエントランスで圭司が綺麗な女の人を抱きしめて、そのまま肩を抱いてうちの下の階の部屋に入って行ったて言うから… てっきり香奈子さんと部屋でそういうことをする気なのかと… あっ ほら、昨日までの予定では、私、泊まってくることになってたし、お義父さんも、絶対あれは浮気してるだなんて言うもんだから…」
「は~!? ふざけんなよ あの、クソ親父! 適当な事言いやがって…」
今度こそ親子の縁を切ってやろうかと、本気で思った瞬間だった。
「なつさん、それはね、抱きしめてたんじゃなくて、倒れそうになった私を支えてくれてたのよ… 肩も貸してもらってただけ…」
本宮の言葉に、なつはようやくホッとした表情を見せた。
「そっか ごめんね、圭司。圭司が私を裏切る訳がないもんね… あっ、香奈子さんも、ホントにごめんなさい。それに、鍵が開いてたからって勝手に入ってきちゃって… 香奈子さん具合悪いのに、私、自分のことばっかりで… あっ、そう言えば、ご主人とはどうなっ…」
「会えなかったわ…」
「あ…」
「ごめんなさい… なつさん、私、今日はちょっと疲れてるから、イチャつくなら、帰ってからやってもらえるかな…」
本宮は苛立った声でそう言った…
「香奈子さん… ごめ」
「悪かったな… なつ、行こう…」
俺はなつの手を掴んで、すぐに本宮の部屋を出た。
何となく、本宮の嫉妬がなつに向けられたのが分かったから…。
「気にすんなよ…」
シュンとなるなつを抱き寄せながら、エレベーターへと乗り込んだ。