婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
裏切りの訳
「どーちて、ゆーまくんとあしょべないの~?」
勇斗が私の足に絡みつきながら、しつこく聞いてくる。
「あー うん 悠真くんのママがね… 今、ちょっと忙しくてダメなんだって…」
そんな嘘をつき続けて、もう二週間以上が経つけれど…
毎回、勇斗には申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
あの日、私は帰ってから、香奈子さんが怒り出した理由を考えていた。
ご主人と大変なときに、自分の夫との浮気を疑ってしまったから…
体調の悪い香奈子さんを気づかえなかったから…
そして、そんなつもりはなかったけれど、結果的に自分達の夫婦仲を見せつけてしまったから…
他にもあるのかもしれないけれど、やっぱり、こういった私の無神経さが香奈子さんを傷つけてしまったのだと思った。
だから、香奈子さんには次の日に、きちんと謝罪に行くつもりだった。
けれども…
その日の夜、圭司から打ち明けられた話にショックを受けて、もう、香奈子さんに対して、どう接したらいいのか分からなくなってしまった。
そして、香奈子さんからも連絡がないまま現在に至る。
「ねえ、勇斗、今日は久しぶりに美咲ちゃんに遊んでもらおうよ~ ね? 勇斗は美咲ちゃん好きでしょ~?」
「……うん」
コクンと頷く勇斗に、私は心の中で何度も謝った。
………
美咲ちゃんママからOKをもらった私は、早速、勇斗を連れて美咲ちゃんのおうちへと向かった。
「勇斗くん 久しぶりだね~ 今日は、美咲のお友達の雪菜ちゃんも来てるから、よろしくね~」
玄関で私達を出迎えてくれた美咲ちゃんママは、ニッコリ笑ってそう言った。
「ごめんね 美咲ちゃんママ… 急に勇斗を入れてもらっちゃたけど大丈夫だった? あっ もしかして、その雪菜ちゃんのママも来てたりする~?」
恐る恐る中の様子を伺うと、美咲ちゃんママは来てないよと苦笑した。
「雪菜ちゃんだけ預かってるのよ… だから、そんな不安な顔しないの… すっかり、新しいママ恐怖症になっちゃったみたいね~」
「………まあね」
美咲ちゃんママに図星をつかれ、ため息交じりにそう答えた。
……
ちょうど美咲ちゃん達は、お姫様ごっこをして遊んでいるところだった。
ティアラや指輪、そして、ドレスまで身につけて、すっかり2人はプリンセスになりきっている。
あー この遊びは…
勇斗にはちょっとキツいかもな…
なんて、思いながら子供達を眺めていると、美咲ちゃんママが口を開いた。
「まあ あれだよ… 勇斗くんには可愛いそうだと思うけどさ、またさ、違うお友達探せばいいじゃない… 旦那さんからそんな話聞かされたらさ、もう、その人とママ友なんて続けられないよ、普通… うん 仕方ないって…」
慰めるように私の肩をポンと叩いた。
「そう…だよね 仕方…ないよね」
私はため息をつきながら、そう呟いた。
…
『永岡さんってさ… 実は俺の高校の時の同級生でさ、芹香の親友だった奴なんだよ。まあ、高2であいつ転校しちゃったし、今日まで俺も気づかなかったんだけどな…』
あの夜、ベッドの中で、突然、圭司が切り出したのだ。
『芹香と付き合ってすぐの頃にさ、あいつ、俺のこと誘惑してきたことがあったんだけど… 拒否したら、芹香のことを本気かどうかを試しただけだって、偉そうに言ってきたんだよな…』
『そっか、そんなことあったんだ…』
『でさ、さっき、俺、ふっと思い出したんだけど、あいつ転校する最後の日にさ、俺に手紙を渡してきたんだよ』
『えっ なんて書いてあったの?』
『俺のこと好きだったって… 俺を誘惑したのも、芹香から奪ってやりたかったからだって… でも、まあ、直接言われた訳じゃなかったし、当時、俺に似たようなことをしてくる奴も結構いたから、記憶が混じって、すっかり忘れちゃってたんだけど…』
そう言って、圭司はため息をついた。
そして、私を見つめながら、圭司は更にこう続けた。
『でさ、ここからが、本題なんだけど… 実を言うと、今日もなつが来る前に、あいつに迫られたんだよ。まあ、今回のは、どういうつもりかは分かんないけど… でも、どうであろうと、俺もなつもあいつに関わるのやめないか? 勇斗にはちょっと可愛いそうだけど…』
圭司はごめんと言って、私を強く抱きしめた。
正直、ショックだった…。
これから、もっと仲良くなれると思っていたし…
かけっこの時、勇斗を励ましてくれたのだって、すごく嬉しかったのだ。
確かに付き合いは浅かったけれど、信頼していたのに…
どういうつもりで圭司に迫ったのかと悲しくなる。
…
「まあさ… 幼稚園だって、他にもある訳だしさ… 勇斗くんだって、そのうち忘れるよ あっ ほら、なんか美咲達とも楽しそうにやってるしさ…」
美咲ちゃんママに言われ振り向くと、確かに勇斗はニコニコした顔で美咲ちゃんと雪菜ちゃんの手を握っていた。
「ん? 何の遊びだろ?」
私が首を傾げると、美咲ちゃんママが笑いながら教えてくれた。
「なんかね、勇斗くんが王子様で、2人のお姫様からお妃を選んでる設定らしいよ…」
「ふーん そうなんだ~」
随分、面白い遊びをしているなあと、微笑んでいると、突然、勇斗が美咲ちゃんの口にキスをした。
「えっ ちょっと、勇斗!! 何やってるのよ! ごっ、ごめんね~ 美咲ちゃん」
思わず声が裏返ってしまった。
「あー いいの、いいの 美咲ね、勇斗くんのこと好きだから… ほら、見てよ 美咲の顔… 嬉しそうでしょ~」
「いや… えっと… っていうか、どこで覚えたんだろ」
私の言葉に、美咲ちゃんママがニヤリと笑った。
「そんなの、おうちでに決まってるでしょ~ そのうちキスマークの仕方まで覚えてきちゃうんじゃないの? それはさすがに、うちのゴリラパパも怒っちゃうから気をつけて~」
うわっ…
ホントに気をつけよう…
クスクスと美咲ちゃんママに笑われながら、本気で反省したのだった。