婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
圭司の会社に着いたのは、11時を少し過ぎた所だった。
抱っこひもの中の勇斗は、キョロキョロと珍しい景色を見回しながら機嫌よくしていた。
受付で瀬崎と名乗り、しばらくエントランスで待っていると、エレベーターから降りてきた女子社員が私に駆け寄ってきた。
「瀬崎さんの奥様ですよね 初めまして、私 瀬崎さんのプロジェクトチームのメンバーで北川と言います。すみません、瀬崎さんは、お客様との打ち合せ中なので直ぐには降りてこれないそうです。お時間大丈夫ですか?」
そう言って声をかけてきた彼女は、まるでモデルさんのように綺麗な人だった。
名前が北川だけあって、あの有名女優の北川○子にそっくりだ。
ゆるふあロングの髪を耳にかけると、私の言葉を待ちながらニコリと微笑んだ。
「あ 主人がいつもお世話になっています。時間は大丈夫なんですけど、ただ忘れ物を届けに来ただけなので、代わりに渡しておいて頂けますか? 今日の会議の資料と携帯なんですけど…」
私の言葉に、北川さんは笑顔で言った。
「それなら、少し涼んで行って下さい。熱い中、勇斗くん連れてせっかく来て下さったんですから… どうぞ、冷たいアイスコーヒーでも飲んで行って下さい」
ニコッと笑う北川さんにつられ、思わず頷きそうになったけれど…
北川さんだって、忙しいはず…
「いえいえ お仕事のお邪魔になるので、私はもう…」
そう言って断ったのだけれど、意外と押しの強い北川さんに負け、結局、奥の来客用ブースで休ませて貰うことになった。
仕切りもあって、赤ちゃん連れの私でもあまり目立たなそうな場所だった。
勇斗を抱っこ紐から下ろして、膝の上にすわらせていると、北川さんがアイスコーヒーを持って戻ってきた。
「勇斗くんがいるから、こっちの方に置きますね…」
北川さんは勇斗から少し離れた所にグラスを置いた。
「すみません ありがとうございます あの 本当にお仕事、大丈夫なんですか?」
「あ はい 大丈夫ですよ。ちょうど私も少し息抜きしたかったので… 気にしないで下さいね」
北川さんはそう言って、自分もアイスコーヒーに口をつけた。
こんなに綺麗で、こんなに気遣いができて、性格だって良さそうで…
こんな人もいるんだなと感心していると、突然、勇斗が眉間にしわを寄せてぐすり出した
すると、その様子を見た北川さんは、自分の口を大きく開けて、向かいの席から勇斗をあやし始めた。
勇斗は北川さんの作る面白い顔を見て、キャッキャッと声を上げて笑い出した。
「ありがとうございます 助かります。良かったね~ 勇斗 遊んでもらえて~」
「勇斗くん ホントに可愛いですよね~ あの ちょっと抱っこさせて貰ってもいいですか?」
北川さんは目を輝かせながらそう言った。