婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
「へえ~ 勇斗もやるな」
美咲ちゃんちでの出来事を話すと、圭司は缶ビールを飲みながら可笑しそうに笑った。
「ちょっと笑ってないで、圭司も少しは反省してよね」
「俺?」
「そうだよ~ 圭司が所構わず、私にキスしてくるからでしょ~ 結構、勇斗、見てるんだからね… もう勇斗の前でベタベタも禁止ね…」
「えっ」
「えっじゃなくて… 勇斗の教育上よくないんだから、圭司もちゃんと」
「はいはい、気をつけますよ」
圭司は最後まで聞かず、チュッと私に口づけた。
「も~ ちゃんと真面目に聞いてってば」
「聞いてるよ 勇斗が寝たら、なつに何してもいいって話しだろ? 今日は、もう、寝たからいいよな」
圭司は悪戯っぽく笑うと、私をソファーの上に押し倒した。
「ダメ… 圭司」
私は圭司の胸に手を当てた。
「ん? ベッドのがいい?」
「ううん、そうじゃなくて…あっ やっ」
圭司は服の隙間からスルリと手を入れて、私の体をなぞり始めた。
あっという間にブラも外され、乳首を指で攻められて…
「あっ… 圭司、待って やめて…」
私は首を横に振ったのだけど…
「ごめん もう止めてあげれない…」
圭司は私の首筋にキスをしながら、耳元でそう囁いた。
一瞬、流されそうになったけど、ハッと我にかえった私は、圭司の体を思いきり押しながら叫んだ。
「私、生理なんだってば!」
圭司はえっと私の顔を見た後、ガクッとうなだれた。
「マジか… どうすんの、これ」
そう言って、自分の下半身に視線を向ける圭司…
「知らないよ~ 圭司がひとりで勝手に盛り上がってたんでしょ~」
「そんな風に言うなよ…」
拗ねたようにしょぼくれる圭司を見て、私は思わず笑ってしまった。
「はいはい… ごめんね。じゃあ、今日は一緒に飲んであげるから… 機嫌、直して」
なんて言いながら、私は冷蔵庫からカクテルを出した。
「これね、今日、スーパーの抽選会で当たったんだよ そしたらね、勇斗がジュースと勘違いしちゃって、取り上げるの大変だったんだよね~ 早く飲んじゃわないとね」
圭司の横に腰掛けてそう言うと、圭司は「そっか」と笑って私の肩を抱き寄せた。
「そう言えばさ…」
ふと、思い出したように圭司が言った。
「なに?」
「勇斗って、悠真くんのこと何か言ってる?」
「あー うん、早く悠真くんと遊びたいって毎日言ってるよ。今日は美咲ちゃんちに行って誤魔化したけど、明日になったら、また言うと思う…」
「まあ、そうだよな… 初めてできた男友達だもんな。」
圭司はため息交じりにそう言った。
そう…
勇斗は幼稚園だって、悠真くんと行くのを楽しみにしているのだ。
勇斗のことを思うと、何とか叶えてあげたいけれど…
圭司を未だに好きな相手と、ママ友でなどいられる筈もなく…
勇斗が諦めてくれるのを、ただひたすら待っているのだ。
毎日、罪悪感でいっぱいだ。
「ねえ、圭司… 香奈子さんってさ… あの日、どんな感じで圭司のこと誘ってきたの?」
何気なく、そんな質問をぶつけてしまった。
「えっ? ああ… 一度だけでいいから慰めて欲しいってベッドにさ… まあ、あいつも、旦那のことがよっぽどショックだったんだろうな… 俺が昔好きだった男っていうのも、少しはあったのかもしれないけど、未遂に終わって何気にホッとしてたし… 裏切られても、まだ旦那には相当未練あるんじゃない?」
「あれ? 圭司に未練があって、私から奪おうとしたっていう話はどこ行ったの?」
「俺、そんなこと言ったけ?」
「え… 私はてっきりそういう話だと… それに圭司だって、もう香奈子さんとは関わるなって言ってたし…」
「そりゃ言うよ 事情はどうであれ、俺と関係を持とうとした時点でアウトだろ そんな奴と、子供を絡めた付き合いなんか、なつにさせられる訳ないだろ?」
圭司が真剣な顔でそう言った。
確かにその通りなんだけど…
なんだろう…
この心のモヤモヤは
「うーん でも、これでホントによかったのかな… 香奈子さん、それくらい追い詰められてたってことでしょ? 今、ほっといて大丈夫なのかな…」
「なつ… 多分、あいつはなつのこと嫌いだと思うよ」
「……知ってるよ。私が無神経だからでしょ」
分かってはいたけど、改めて言われるとやっぱり傷つく。
「いや、なつがどうっていうより、なつがあいつの失ったものを持ってるからだよ… 『裏切らない夫』に『幸せな家庭』… だから、なつがどうあいつに接しても、あいつからは悪意や嫉妬しか向けられないと思うよ。少なくとも今は…」
「そっ…か」
私はそう返事をして、手にしていたカクテルを一気に流し込んだ。
あの日、私は香奈子さんを凄く傷つけてしまったんだろうな…。
それだけは分かった。
私は圭司の肩にもたれながら、その夜はほろ苦いお酒を飲んだのだった。