猫の舌は甘いのか?~ラブレターは絶滅していません。~
「え?」
私は通路からの突然の声に、驚いて顔を上げた。
そこには、線の細い賢そうな顔立ちのクラスメイトが立っていた。
私が声を掛けるよりも速く、もあが口を開く。
「鴇子(ときこ)さん、久しぶりね。元気だった?」
「うん。ちょっと佐賀の方に用事があってね。学校は一週間ぶりくらい?
もあは、相変わらずの目の上一直線が素敵だね。」
目の上一直線………パッツン前髪の事だ。
もあは、最近では滅びつつある、淑女系ロリータなので、勿論髪型は姫カット。艶やかな黒髪も髪型も彼女には良く似合っていると思う。
そんなことより………
「鴇子さん、猫の舌って何?」
私は、頭を傾げた。鴇子がにっ、と笑う。
「今食べているものだよ、木葉。
君は、確か猫アレルギーがあるのに良いのかな?」
「や、やだなぁ。これはれっきとしたお菓子ですよ。おひとついかが?」
私が恐々、薦めると、鴇子は例の笑いを再び浮かべた。
「フランス語で
ラングは舌、
シャーは猫って意味なんだよ。
つまりそのお菓子は“猫の舌”って事だね。」
「へー。雰囲気あるね。」
私はそのしっとりした甘いお菓子を、少し感心して見た。
もあも同様だ。
「可愛い名前ね。」
鴇子は、私達を見比べると、少し不服そうに首を傾げた。
「ふぅん………?」
なんだろう?私は、声をかけようとしたが、突然教室の扉が開いた為、意識をそちらへ向けてしまった。
クラスの子達も、なんとなく同じ反応をする。そして、すぐに興味を失うのが気配で分かる。
扉をひらいたのは、2組の同級生、林孔司(こうし)だった。
丸い小顔はこちらを向くと、一直線に私達の席へやって来た。
「はぁ、お前また甘いもの食ってるの?
まだ、太り足りないの?」
私を見下ろして、呆れた顔を見せる。
堀の深い、可愛い系の顔立ちを持つこの友人だが、残念な事に配慮が足りない。
おまけに身長も足りない。
だから、女子受けしないし、興味も引かないのだ。
「私は、ぽっちゃりという市民権を得ているので良いのです。」
「ぽっちゃり、ね。男が考えるぽっちゃりって、割りと幅狭よ。」
「そんな男は滅んでしまえば良いのです。」
孔司が目をなくすように笑った。
なんだかんだ言って、無邪気なこいつは可愛い。
「木葉は、太ってないよ。
だいたい日本人の痩せたい願望、怖すぎ。」
「そうだよ、林君。木葉は太ってないよ。」
鴇子ともあが連続フォローを入れてくれる。
孔司がまた呆れ顔に戻った。
「なんそれ。女子の謎のフォロー。マジ、こわー」
そうだよ。女の子には大事な儀式だ。
鴇子が、少し苛立って横に立つ孔司を見た。
「で、林は何の用?」
「鴇子さん、冷たくない?久しぶりに会ったのにぃ。
って言うか、何してたの?」
「ああ、佐賀で一週間………って林の用を先に聞くよ。
休憩が終わるから。」
鴇子の一週間は非常に気になる。
だけど、それは後回し。
鴇子がふと学校に来なくなるのは、珍しい事ではない。
そして、こちらが想像もつかない理由を語ってくれる。
こんな授業の合間に、さらっと聞くのは勿体ない。
私は孔司の顔を見上げた。
その顔は少し朱みが刺している。俯いて急に歯切れが悪くなった。
なんだろう?
「いや、今じゃなくて。
昼休憩に。ちょっとお前達に相談が。」
「ふぅん?じゃあ、昼休憩に何時ものベンチで……大丈夫かな?」
鴇子が私と、もあを見る。二人が頷くと、昼休憩の予定が決まった。
鴇子と孔司が離れて自分の席へ戻っていく。
2限目が始まるのだ。
私も黒板を向くように座り直した。
もあ、鴇子、孔司、そして私。
いつの間にか四人でつるむようになった私達は、
この高校で二年生になる、
平凡な学生だ。
私は通路からの突然の声に、驚いて顔を上げた。
そこには、線の細い賢そうな顔立ちのクラスメイトが立っていた。
私が声を掛けるよりも速く、もあが口を開く。
「鴇子(ときこ)さん、久しぶりね。元気だった?」
「うん。ちょっと佐賀の方に用事があってね。学校は一週間ぶりくらい?
もあは、相変わらずの目の上一直線が素敵だね。」
目の上一直線………パッツン前髪の事だ。
もあは、最近では滅びつつある、淑女系ロリータなので、勿論髪型は姫カット。艶やかな黒髪も髪型も彼女には良く似合っていると思う。
そんなことより………
「鴇子さん、猫の舌って何?」
私は、頭を傾げた。鴇子がにっ、と笑う。
「今食べているものだよ、木葉。
君は、確か猫アレルギーがあるのに良いのかな?」
「や、やだなぁ。これはれっきとしたお菓子ですよ。おひとついかが?」
私が恐々、薦めると、鴇子は例の笑いを再び浮かべた。
「フランス語で
ラングは舌、
シャーは猫って意味なんだよ。
つまりそのお菓子は“猫の舌”って事だね。」
「へー。雰囲気あるね。」
私はそのしっとりした甘いお菓子を、少し感心して見た。
もあも同様だ。
「可愛い名前ね。」
鴇子は、私達を見比べると、少し不服そうに首を傾げた。
「ふぅん………?」
なんだろう?私は、声をかけようとしたが、突然教室の扉が開いた為、意識をそちらへ向けてしまった。
クラスの子達も、なんとなく同じ反応をする。そして、すぐに興味を失うのが気配で分かる。
扉をひらいたのは、2組の同級生、林孔司(こうし)だった。
丸い小顔はこちらを向くと、一直線に私達の席へやって来た。
「はぁ、お前また甘いもの食ってるの?
まだ、太り足りないの?」
私を見下ろして、呆れた顔を見せる。
堀の深い、可愛い系の顔立ちを持つこの友人だが、残念な事に配慮が足りない。
おまけに身長も足りない。
だから、女子受けしないし、興味も引かないのだ。
「私は、ぽっちゃりという市民権を得ているので良いのです。」
「ぽっちゃり、ね。男が考えるぽっちゃりって、割りと幅狭よ。」
「そんな男は滅んでしまえば良いのです。」
孔司が目をなくすように笑った。
なんだかんだ言って、無邪気なこいつは可愛い。
「木葉は、太ってないよ。
だいたい日本人の痩せたい願望、怖すぎ。」
「そうだよ、林君。木葉は太ってないよ。」
鴇子ともあが連続フォローを入れてくれる。
孔司がまた呆れ顔に戻った。
「なんそれ。女子の謎のフォロー。マジ、こわー」
そうだよ。女の子には大事な儀式だ。
鴇子が、少し苛立って横に立つ孔司を見た。
「で、林は何の用?」
「鴇子さん、冷たくない?久しぶりに会ったのにぃ。
って言うか、何してたの?」
「ああ、佐賀で一週間………って林の用を先に聞くよ。
休憩が終わるから。」
鴇子の一週間は非常に気になる。
だけど、それは後回し。
鴇子がふと学校に来なくなるのは、珍しい事ではない。
そして、こちらが想像もつかない理由を語ってくれる。
こんな授業の合間に、さらっと聞くのは勿体ない。
私は孔司の顔を見上げた。
その顔は少し朱みが刺している。俯いて急に歯切れが悪くなった。
なんだろう?
「いや、今じゃなくて。
昼休憩に。ちょっとお前達に相談が。」
「ふぅん?じゃあ、昼休憩に何時ものベンチで……大丈夫かな?」
鴇子が私と、もあを見る。二人が頷くと、昼休憩の予定が決まった。
鴇子と孔司が離れて自分の席へ戻っていく。
2限目が始まるのだ。
私も黒板を向くように座り直した。
もあ、鴇子、孔司、そして私。
いつの間にか四人でつるむようになった私達は、
この高校で二年生になる、
平凡な学生だ。