ねぇ、運命って信じる?
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲ side恭護
ついに話してしまった…彼女の疑問は当然のことだろう。
それは3年前にさかのぼる。
いつもの場所で美羽と会う約束をして、あの日に彼女にプロポーズするはずだったんだ。…大学院を卒業したら会社で後継者修行することが決まっていたため今まで隠していたことすべてを話すつもりだ。彼女なら自分が御曹司でもずっと黙っていたこともきっと受け入れてくれる。
自分を鼓舞しながら約束の場所へ向かう途中、交差点に暴走した車が突っ込んできた。一瞬何が起こったのか分からず、周りの音がとぎれとぎれ聞こえた。彼女に会いに行かないと……そこで意識が途絶えた。
目が覚めた時には3週間が過ぎていた。それまでも何度か意識が戻ったらしいがよく覚えていない…。
事故後1ヶ月近くは意識が朦朧とし、一時は状態が不安定になったりと大変だったらしい…らしいというのも退院後に姉から聞いたことなので自分的には現実感が持てなかった。
”しばらく入院が続くでしょう。退院後もしばらくはサポートがあったほうがよい。”と医師に言われたそうだ。
退院後は両親がまた事故に遭ってはかなわないと強引にそばに人をつけてしまい1人で外出することもままならなくなった。正直そんな何度も事故に遭うことはないだろうと思うが意識がなかった間、母がかなり精神的に疲弊したらしく俺の為というよりも愛妻家の父は母を想ってしたのだろうと思えば無下にできない。
その後も足に入れたピンを取り外す手術など病院通いは続いた。自宅でできる会社の勉強や仕事の手伝いなども父がつけた永田さんに教わりながら実力をつけていった…
自立したいと一人暮らししていたアパートも入院中に引き払われてしまっていた。事故に遭ってすぐ家族が人に頼み必要最低限の物以外はすべて処分し、引っ越しが進められたらしい。
自分の荷物も半分以上処分されてしまって、彼女との写真も財布に入れてあった1枚のみ。携帯も事故の時に壊れてしまい誰とも連絡をとることが出来なくなってしまった。
修平に俺の居場所を聞かれたらしいが、その時は家族以外の誰にも事故のことを話すなと言われていたらしく修平にも知らせなかったらしい。回復してからすぐに連絡すればよかったのかもしれない。でも自分の体も満足に動かせない姿を見せたくなかった…1年に及ぶリハビリの甲斐あって自分の身体を自由に動かせるようになった。彼女に会いに行くために……必死に頑張った。”本来ならもっと時間がかかるのに。”と医師に驚かれたほど。多少の傷跡は残ってしまうようだが、幸いにも運動機能に支障は残らなかった…傷さえ見なければ事故に会ったことなどわからないくらい回復した。
そして、母もだいぶ落ち着いたのでやっと人をつけることをやめてもらえた。…これで、彼女に会いに行くことができる。本来ならもう少し早く会いに行けたけど…さすがに永田さんを引き連れて行くことは避けたかった。彼女はきっと待っていてくれる…
さっそく彼女の住所を訪ねたがそこに彼女は住んでいなかった。どうしてもすぐに会いたかった…修平に事故以来ぶりに連絡を取った。
『お前今までどうしてたんだよ!連絡もしないで!』と怒られたがそれよりも彼女が今いる場所が知りたい。
『また今度ゆっくり話すから…彼女の居場所が知りたいんだ。頼むよ…』と修平の彼女にお願いしてもらった。同棲中らしく渋々ながらもすぐ美羽に連絡を取ってくれた。
”今からショッピングモールに行くらしい。”と教えてもらい、すぐにその場へ向かった。
だが、そこで見たのは自分の望んだ光景じゃなかった…それは知らない男と一緒にジュエリーショップにいるところだった。直感的に2人が恋人同士だと思い込んだ。仲よさそうにショーケースを覗き込んでいたから…
「なんで…指輪なんかみてるんだよ」
その瞬間自分の考えが甘かったと思い知らされた。…今日までの自分の努力はすべて無意味で無駄なことだったのか…。
本当は彼女に事故のことや今までのことをすべて話し、ついて来てほしかった。それがだめなら待っていてほしいと話すつもりだった。
リハビリにかなり時間を要した為、中途半端な時期に入社になってしまうので社長である父は”ぬくぬくと後継者修行をするよりいっそ見知らぬ土地で1から始めてみてはどうか。”と提案と提案という名の決定を告げられたのだ。それはナカハラグループ長年の夢であった海外進出の基盤となるその地で基礎を固めてこいというもので、それが成功するか否かでグループ全体の未来が決まるという大役だった。新米の俺が担えるわけないと抗議したら長年父の秘書で切れ者の永田さんをつけるから大丈夫だ!と押し切られる。永田さんはリハビリ中から世話になっていたので信頼のおける人で少し安心したが…なんせスパルタなので先が思いやられた。
いっそ、無かったことにしてしまおう…彼女とは事故の日に別れたんだ…。
修平達には秘密にしてくれるよう頼んだ。その後すぐ海外へ出発する予定だったので携帯も解約した。
仕事が忙しくなればきっと忘れられる…そう心に決め日本を発った。
だからあの時が最後のチャンスだった。
その後修平とはパソコンのメールで連絡を取りあった。1年間の事をかいつまんで話したが詳しいことは省略した。周りには特に愛莉ちゃんに秘密にしてくれるように頼んだ。そしてもし、話したら連絡を絶つと脅すと仕方なしに了承してくれた。
海外でそれを1年でやり遂げた俺は実力を認められて永田さんを敵に回したくない人になった。その後海外や国内の支社を転々としその度成果を上げ、つい2ヶ月前にようやく本社に鳴り物入りで配属されたばかりだった…そして彼女と再会した。
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「ようやくリハビリが終わって…あの日、修平に居場所を教えてもらって美羽に会いに行ったら…2人で楽しそうに指輪を選んでいた。…だからもう、俺は必要ない。そう思ったんだ。」
「話しても信じてはもらえないかもしれないけど、あれは誤解です。」
誤解だって?確かにこの目で見たものをどうやって誤解するんだよ。
「あれは同期の工藤と買いに行ったんです。あの頃すごく声をかけられる事が増えて仕事に支障が出たことがあって。それに彼は私の指導先輩のことが好きでしたから。私と工藤に何かあるなんてありえない。……だから、あのときもしもあなたが私に会いにきてくれたなら…でももうどうでもいい事ですよね。中原さんは結婚されるんですから。」
会いにきてくれたなら……なんなんだよ。俺を待っていたとでも言うのか。
「じゃあ彼とは何でもないのか?俺の誤解だったと…」