ねぇ、運命って信じる?
9月7日…
かすかな不安と期待を胸に抱え、待ち合わせ場所の並木道入り口に少し早めに到着した。
「もう今年の花火大会終わっちゃったんだ…」
恭護との初めてのデートはここの花火大会だった…彼が姿を消して以来ここを訪れたのは初めてだ。彼がいなくなってから数日は何度も足を運んで彼を待ったけど…それからは彼との思い出から逃げるようにこの並木道や花火大会を避けていた。
「花火大会、来年は一緒に行けるかな。…また行けるといいな。」
「…なにを?」
後ろから突然声をかけられ驚き、振り向くとそこには恭護が不思議そうに立っていた。
「ごめん、気付かなかった。…いつ来たの?」
「…行けるかな。ぐらいからかな。美羽全然こっちに気付かなかったから。驚かせたかな。…で、なにを行けるかな?」
「あ、ううん。平気だよ。…あのね、来年は花火大会一緒に行けるといいな。と思ってたら、恭護が来てたの気付かなかった。」
その言葉を告げた後、恭護は突然改まったように…
「そっか。…来年も再来年も一緒に来よう。中原美羽として…遠回りしたけど、俺と結婚してください。」
差し出された指輪を前に美羽の答えはもちろんイエスだ。涙を浮かべながら…
「…はいっ。よろしくお願いします。」
「誕生日おめでとう。これからもよろしくな?」
一瞬、自分の妄想かと思ったけど、薬指にぴったりはまった指輪が現実だと教えてくれた。
「誕生日覚えてくれてたの?忘れてると思ってた。ありがとう、恭護…これからもよろしくね。」
贈られた指輪は実は3年前に準備していたものだと恭護が照れくさそうに教えてくれた。
「ほんとはもっと大きな指輪を贈りたかったけど、あの頃の俺にはその指輪が精一杯で…それにあの時渡すはずだった指輪でプロポーズしたかったんだ。…その代わり結婚指輪は豪華にするから!」
「ううん。これがいい…だってこの指輪には3年分の想いも詰まっているんでしょう?」
薬指に輝く指輪はとても綺麗で十分満足なのに。
「それはそうだけど。…でもやっぱり今の俺から指輪を贈りたい気持ちもあるし…」
「そっか…でもよく3年前の指輪持ってたね?捨てなかったんだね。」
「それは…事故のあとに残ったものは指輪とあの写真だけだったから…引き出しの奥に鍵をかけてしまっておいたんだ。」
「そうなんだ。…ふふっ。私も恭護のアパートから持って帰った箱捨てられなくて、クローゼットの奥にしまってあるんだ。私たち同じようなことしてたんだね?」
辛かったはずの思い出もいつのまにか笑って話せるようになっていた。
「この指輪で十分なのに。」
…それでも恭護は納得いかないらしく、結局折衷案で婚約指輪に重ねてつけられるものを結婚指輪としてつけることで互いに納得した。…そんな些細な言い合いさえも懐かしくそして嬉しく感じる。
美羽はもうしばらくの間、仕事を続けることになったが、その指には彼から贈られた指輪が光っている。
綾乃さんと竹田さんの式の準備も着々と進み、まだ忙しい日々が続きそうだ。
3ヶ月の間にいろんなことが起きてめまぐるしい日々は過ぎ去っていったけど…これからはきっと2人で乗り越えていけるよね?
ねぇ…運命って信じる?……私は信じるよ。