ねぇ、運命って信じる?
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彼と出会ったのは…大学1年の5月だった。
ようやく学生生活に慣れてきたゴールデンウィークの翌週のある日、愛莉が満面の笑みでこちらに近づいてきた。
幼稚園からの幼なじみの鈴木愛莉は小柄で柔らかそうな髪にウルウルの瞳で一見守ってあげたくなるような容姿だが、性格はズバズバ物言うタイプで私とは正反対だ。こうゆう時の愛莉には何か裏がある。長年親友をしているとわかってしまう。なぜだろうイヤな予感がする…
「ねぇねぇ、美羽今日ヒマだよね?合コンあるの!」
…やっぱり。当たった。
「うん…ヒマじゃないような気がしてきた」
愛莉の顔が一瞬にして歪んだ。
「はぁ?嘘ついてもわかるからね。ヒマだよね!」
可愛い顔が台無しだよ…愛莉…。
「わかったからその顔やめようか。」
「あのね、今日の合コンにどうしても行きたいの!前に話した人が来るんだって!だから一緒に行こうよ。ねっ?」
「あ〜……愛莉が生まれて初めて一目惚れした人?良かったね!頑張って。私はいいや…。」
「も〜あのコトは忘れて新しい出会いを探そうよ。私の恋を応援すると思ってさぁ。」
あのコト…ね。頭の隅に追いやっていたはずの記憶を思い出し思わず顔をしかめる。
まぁ、要約すると付き合った人が愛莉目当てだったという事なんだけど…それは置いておくとして。
「うーん…しばらくは恋とかはいいけど、愛莉の為に一肌脱ぎますかっ!笑 」
「やったぁ!ありがと〜美羽!今日の合コンにあんなクズ男はいないからさ、安心してね〜」
「クズ男…笑。いたら速攻帰らせてもらうわ
でもさぁ愛莉は結構気合い入った格好だけど、私こんな格好でいいの?あきらかに人数合わせですって言ってるようなもんだよ。…事実そうなんだけど。」
今日の美羽はグレーのオフショルダーのトップスにスキニージーンズといたってラフな格好だ。美羽の格好を上から下まで観察していた愛莉は
「うーむ…あっ、そうだ!大丈夫だよ!私ね、合コンの時にネックレスつけようと思ったんだけど…悩んじゃって予備のネックレス持ってきてるんだ!これなら美羽の今日の格好に合うと思う。ネックレスするだけで華やかになるし。」
カバンからネックレスを取り出した愛莉はどこか得意げだ。
「 そうなんだ予備があるんだ…準備がいいね。有難くお借りします」
苦笑しつつも、まあどうせ私は引き立て役だしね……たいして変わらなくても大丈夫でしょ。心のどこかでそう思ってた。
合コンには同じ授業を受けているショートボブが似合う美人さんの木村百合ちゃんとスタイル抜群で派手に見られがちだけど実はそれがコンプレックスなんだと話す澤田貴子ちゃんと合流し、待ち合わせのお店へと向かった。なんかみんな気合い入ってるな…みんなスカートなんだけど…私だけジーンズってやっぱり浮いてるんじゃないかな。…そういえば相手、結構いい大学だって言ってたような…今更だけど、本当にこの格好で大丈夫かな?少し心配になりながら横を歩く愛莉に目を向けると愛莉はお店に着くまでずっとるんるん気分だった。百合ちゃんと貴子ちゃんもどことなく浮き足立っているようだ…2人は愛莉の片思いを知らないようなのでここは私がしっかりフォローしなくては!と1人息巻いた。
外観も内装もおしゃれな雰囲気の居酒屋さんに入ると、少人数用に区切られたスペースにすでに合コン相手が待っていた。こちら側の幹事を愛莉が買って出たはずなのに愛莉はお店に入ってからある1人にクギ付けで、”あぁこの人が片思いの相手か”と納得した。…愛莉の様子に戸惑いながらもほぼすべて向こうの幹事さんが仕切ってくれていた。若干、苦笑いだったのは見なかったことにしよう…。
簡単な自己紹介からはじまった合コンはむかって左から幹事のガタイのいいスポーツマンタイプで面倒見が良さそうな山内省五さん、メガネをかけていていかにも頭がよさそう…どうやら4人のまとめ役の熊谷真也さん、そして愛莉お目当てのムードメーカーなようで笑うと少し幼く見えるけど気の利く中島修平さん、その隣には落ち着いた雰囲気で他の人より静かで知的に見えたけど、1人だけ人数合わせなのか寄せ付けない空気を醸し出してる…ちょっと冷たそうに見える中原恭護さん。
私たちより2学年上の大学3年生で皆さん同級生なんだとか。私たちとは違う大学だが愛莉がツテを必死で探し、ようやく合コンまでたどり着いたらしい…。なんでも山内さんの妹の友達に知り合いがいて中島さんマストで合コンを頼んだので山内さんは愛莉の目当ての人を知っているらしい。お店へ向かう最中、愛莉が満面の笑みで教えてくれた。
それにしても皆さんタイプは違えどイケメンさんですね…類は友を呼ぶというやつですね!
こちらも左から貴子ちゃん、百合ちゃん、愛莉、私とそれぞれ自己紹介した。
中原さんイケメンなのになんか怖くて近寄りがたい。とお花摘みタイムで百合ちゃん貴子ちゃんはターゲットから外した模様だ。そして中島さんに関しては愛莉の猛アピールを見て悟ったらしく2人とも応援してくれるようだ。つまり、愛莉の片思いの中島さんを狙う人はいなくなったので後は愛莉と中島さんが上手くいけば万事解決!……そんなことを考えながら、美味しい食事に舌鼓をうつ。百合ちゃん、貴子ちゃんはそれぞれ目の前の相手が気に入ったらしく、2人とも楽しそうに話しているようだったから少し安心した。
そろそろお店を出る時間になると、みんなそれぞれイイ感じの雰囲気になっていた。私といえば目の前にいた中原さんと少し会話した程度で後は愛莉のフォローと食事に徹していた。とりあえず自分の役目を終えたことに満足していた。
他のメンバーは二次会に行くらしいが、もう私はいなくても問題ないだろうと思い、帰ることにした。やはり中原さんも人数合わせだったのか、「俺も帰るわ」と幹事さんに話しているのが遠くで聞こえた。
頑張れ、愛莉!心の中で声援を送り上機嫌で帰宅の途についた。
次の日…
「昨日どうだった?」
「あのね!今度一緒に出かけることになった!」
イヤな予感がした……なんでかって?愛莉が頼み事するとき特有の満面の笑みを浮かべていたから。
「良かったね、愛莉」
「だから美羽も一緒に4人で行こうね」
…聞き間違いかな?……4人でって聞こえた気がするけど。また予感は当たったのね。
「はぁ?なんでそうなったのかな。愛莉ちゃん?」
顔が引きつるのを感じながら問いかけると
「だって…流れでそうなっちゃったんだもん」
だもん…てそんな可愛い顔して言わないでよ。断れなくなっちゃうじゃない……。
「2人じゃダメなの?」
ダメ元で聞いてみたら、その途端愛莉は困ったような今にも泣きそうな表情で
「昨日二次会で美羽が帰ってから緊張しすぎて全然話せなかったんだから!一緒に出かけられることになったのも奇跡みたいなものなんだからねっ!だから…修平くんとの仲を取り持って!ねっ、お願い…。」
愛莉の勢いに押されつつも切実さが伝わってきた。
「わかったよ。負けた!協力するから。」
…見たぞっ!愛莉さんっ!今、ニヤッとしたでしょ⁉︎愛莉の作戦に負けたような気がする…
そして、合コンから1週間後の土曜日に4人で会うことになった。
愛莉から朝一でウチに来て一緒に行こうと誘われていたので家を訪ねたら、愛莉の第一声が
「何、その格好。本気なの?」
愛莉さん、真顔が怖いんですけど…
「え?ダメ?」
私の格好はシャツワンピースにレギンス足元はウエッジソールのパンプスで歩きやすさ重視といつもの格好に毛が生えた程度のものだった。ワンピースを着ただけでも褒めてほしいぐらいだ。…それだけ普段からカジュアルな格好が多く、それを知っている愛莉は予想的中とばかりに…
「やっぱり朝一で来てもらって正解だった。せっかくのダブルデートなんだから、もっと可愛い格好しなくちゃ!この愛莉さんに任せなさいっ!」
「ダブルデートって…ただの付き添いでしょ?そんなオシャレしなくても…」
キッと睨まれたので余計な口出しはするまいと大人しく従うこと数十分…
「出来たよ!鏡見てみて。」
愛莉に促され姿見の前に立った。そこに映った自分は普段なら絶対に着ないスカイブルーのノースリーブワンピースにカーディガンを羽織り、長い髪も愛莉の手によって緩く巻かれていた。
「わぁ…別人みたい…なんか変な感じ。それにしてもワンピースの丈短すぎない?」
小柄な愛莉との身長差を考えれば愛莉には膝丈でも私には膝上10センチのミニスカートになってしまう。スカートってだけで落ち着かないのに、ミニスカートなんて…
「それぐらい普通だよ?ほら、私だって。まぁ要は慣れだと思うよ!足元は今日履いてきた靴に合わせてコーディネートしたから大丈夫だよ!自身もって!可愛いんだから!」
満面の笑みで親指を立てている愛莉は今日はいつもより一段と気合いが入っていた。パステルピンクのシフォンワンピースで歩くたびにフワフワと裾が広がってとても可愛い。
「うん。ありがとう。愛莉めちゃくちゃ可愛いね!今日は目一杯援護射撃するから。だけど…中島さんともう1人は誰が来るの?」
「ありがとー美羽!頑張る!…うーん。よくわからないけど、変な人は連れてこないと思うけど…」