ねぇ、運命って信じる?
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3年前の6月…初デート以来定番となった並木道での待ち合わせに恭護は現れなかった。いつも何かあればすぐに連絡してくれるのに。連絡も取れないことに不安になり修平くんや他の知り合いにも聞いてみたけど何もわからないまま1日中待った……その日彼が姿を現すことはなかった。
次の日から私は彼のアパートに何度も足を運んだが彼の姿はなかった。彼の友達や知り合いにも聞いてまわったが、誰も何も知らなかった。 愛莉や修平くんも手伝ってくれたけど何もわかならなかった…
2週間過ぎた頃だろうか…いつの間にか彼のアパートは引き払われてしまった。管理人さんに聞いてみたが何も教えてはくれなかった。それでも諦めきれずに何度も訪ねて行くと、管理人さんは少し困ったように
「あなた顔色悪いわよ…大丈夫?…少し話を聞かせてちょうだい。どうして203号室の彼を探しているの?」
そこで彼が待ち合わせに来ないまま突然姿を消してしまった事を話した。すると…仕方ないとばかりに
「203号室の彼ね、急に引っ越してしまって、色々置いていった物も多くてね…本人もいないしねぇ、家族の人に”こんなに捨てて大丈夫なんですか?”って尋ねてみたら”すべて捨てていただいて大丈夫です。”って言うのよ。…それ以外にも箱ごと置いていったものもいくつかあってね…ほとんどは不用品のようだけど、その中には写真とかも入っていてね。なんとなく捨ててしまうのも忍びなくて、もしかしたら彼が取りに来るかと保管していたんだけど…もう1ヶ月でしょ。もうそろそろ処分しようかと思っていた所だったの。」
まさか……写真って…
「お願いします!その箱を見せてください。」
最初のうちは渋い顔をしていた管理人さんとの攻防がしばらく続き、最後には美羽の熱意に負けて箱の中を見せてくれた。
「本当はこういうのよくないんだけどね…あなたはよく彼と一緒に歩いていたわね…挨拶もきちんとしてくれて……誰にでも見せるわけじゃないのよ」
その箱の中には2人で使っていたマグカップやアルバム、写真立てなど思い出があるものばかり入っていた。なんで…?
「…あの、この箱…持って帰ってもいいですか…」
横から中を確認した管理人さんは条件付きで彼女に箱を譲ってくれた。
……その条件がもうここには来ないこと。
「これは老婆心からだけどね…もうそろそろストーカーだと疑われるからやめなさい。それにもうすぐ次の入居者が入るのよ…。その代わり、彼が訪ねて来たらあなたに連絡してもいいか聞いてOKなら連絡するわ。だから、約束してちょうだい。いいわね?……その箱はあなたが来なかったら処分していたものよ。持って行きなさい。」
そう言われてはじめて気付いた…自分の事に必死すぎて周りを見る余裕すらなかった事に。
「わかりました。ありがとうございます。……迷惑かけてすいませんでした。…これ連絡先です。よろしくお願いします。」
一縷の望みをかけ、メモ帳に番号を書いて渡し頭を下げた。
「でも…もし彼が半年経っても現れなかったら破って捨ててください。お願いします。」
親切に申し出てくれた管理人さんにこれ以上迷惑をかけたくなかったけど、半年と区切ることで自分の気持ちも整理できるかもしれない…管理人さんは少し驚いたものの了承してくれた。……その瞬間、少し救われた気がした。
帰り道…彼とよく一緒に通った道だった。2人で歩いた時には感じなかったけど、殺風景な道路はまるで今の自分の心境を表しているかのよう。
「私、恭護に嫌われちゃったのかな…。恭護…会いたいよ…うっ…くっ…」
彼がいなくなってからはじめて人目を気にすることなく大声で泣いた。止めようとしても涙がこぼれ落ち、しばらくその場に立ちつくした…。
実際の重みの何倍にも感じるその箱を抱えながらフラフラと歩き出したことまでは覚えている。ただ、あまり記憶がないのだ…気付くと辺りはすっかり暗くなっていて家の玄関に座り込んでいた。部屋のあちこちで彼との思い出がよみがえり、また涙がこぼれ落ちた。
恭護は私の前から姿を消した…。彼が消えてしまい世界が色褪せて見える。何もかもが味気なく感じて全身が脱力感に支配された。
本当に世界が変わって見えるなんて…映画や本の中でしか起こりえないと思ってた。彼がいなくなってからしばらくの間、身も心もボロボロになってしまい、夢にうなされることもあって眠れない日が続いた…就職活動もなかなか上手くいかなくて、心配した家族が”祖父の会社を紹介しようか?”と言ってくれたけど、もう少し頑張ってみると断った。
…時とともに少しずつ気力を取り戻しようやく決まった就職先が今の式場だった。第1希望ではなかったけど、本社は様々な場所に式場やサロンを持っていて、たまたま郊外の式場に配属が決まった。
半年の間、ずっと携帯が手放せなかった…もしかしたら連絡がくるかもしれないから。でも…半年待っても連絡が来ることはなかった…就職を機に携帯を機種変更した。これ以上期待しないように。立ち止まったままではいられない…部屋にあった彼のものすべてをあの箱へ詰めこんだ。
それでも…思い出の詰まったあの箱は処分する事が出来なかった。自分の恋まで否定されるような気がして…だから、クローゼットの1番奥にしまい込んだ。決して目に触れないように……。