ねぇ、運命って信じる?
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彼女を初めて見たとき、あぁキレイな子だな。 でもなんで自信なさげなんだろう。
それに自分はハナから恋愛対象じゃないと思っているような態度だ。興味を引かれ彼女を観察していれば、彼女は自分の友達と修平をくっつけるためだけにここへ来たようだ…
愛莉ちゃんて子は、ほとんどの男なら心惹かれるであろう容姿をしていた。修平のタイプど真ん中だ。彼女たちが来た瞬間、修平の目が輝いた…だからそんなに一生懸命2人をくっつけようと頑張らなくてもいいのに。
そんな彼女も大きな目に長い黒髪、笑うとできる片えくぼが印象的で十分キレイな部類に入るだろうに…確かに愛莉ちゃんて子は可愛らしく守ってあげたくなるようなタイプで彼女はというとキレイで一見クールに見えた。好みは分かれるのかもしれないが…あの笑顔を見たら結構グッとくる奴も多いだろう。だが、彼女はそんなこと露ほども思っていないようだ。
それに彼女は俺に興味すら湧いていないようだ。今までの人生、恋人に困らない程度にモテて来た。そのなかにはルックス以外に俺が御曹司という理由だけで甲高い声で言い寄る女たちも多かった。…そんな女たちに嫌気がさした。本当の自分を見てほしかった。だから、面倒を避ける為にも大学に入るとき自分の身分を隠す事にした。幼なじみの修平にも秘密にしてくれるよう頼んだら修平は今までの苦労を見てきているのでそれを快諾してくれた。そのおかげで今のところ周りの奴らに御曹司だとバレていない。…それでも言い寄ってくる人が少なくなかった。
今日の合コンはたまたまピンチヒッターとして修平に頼みこまれて人数合わせで来たのだが…
向こうも1人人数合わせのようだし、最初から3対3でやれば良かったのに。
ビールを飲みながらそんな事を考えていた。
色々と面倒が起こると嫌なので、あえて無愛想にしていよう。合コンに行くときからそう考えていた。その作戦が功を奏し、俺に話しかけてくるのは目の前の美羽ちゃんだけだった…それも俺に興味があるからではなく場を和ませる為にという感じだった。
その後二次会には行かずに帰ったが美羽ちゃんも帰ったようで…やはり3対3でよかったんじゃないかと思う。
翌日、朝から修平が
「今度4人で遊ぶ事になったから。恭護よろしく頼むわ。」
「なんでそうなった?」
眉間にシワが寄るのを感じながら尋ねた。
「うーん?…流れ?」
こいつにはこういう事がよくある。埒があかないので先に進める。
「…誰と?」
対する修平はニコニコしながら
「愛莉ちゃんとほら、お前の前に座ってた子。えーと…美羽ちゃんだよ」
あの子が?どう考えても2人が勝手に決めたんだろ…
「それ本当に話ついてんのか?」
「えー、だって愛莉ちゃんが4人で。って言うんだもん…俺的には2人でも全然OKなのに…むしろ2人でいいのに」
しょんぼりしながらブツブツとつぶやいている。
「お前、がっついてると思われたんじゃないの」
その言葉にショックを受けている修平をその場に残し立ち去ることにした。
後ろから「詳しいことはまた連絡する〜」と大声で叫んでいた修平からその夜メールで
『来週の日曜、この間改装終わってアトラクションがいくつか増えた所わかる?あそこの遊園地に11時集合に決まったからよろしく!』
半ば強引に決定したはずなのに、俺はメールを読みながら、彼女きっと俺に見向きもしないで2人を応援するんだろうな。…この時の恭護は知らず知らずのうちに顔が緩んでいた…彼女が俺に一切興味を持っていないことが新鮮だった。
今、思えばこのときすでに彼女に惹かれはじめていたのかもしれない。
日曜…ついにダブルデートの日がやって来た。待ち合わせ場所に着くとすでに修平が待機していた。これでも約束の30分前と早く着きすぎたぐらいなんだが、聞けば修平はもう30分前からここにいたという。つまり10時には到着していた事になる。気合い入り過ぎだろ…空回りしなきゃいいけど。…そういう俺もガラにもなくソワソワとしてしまい家を早く出てきていたのだが…
約束の15分前、彼女たちがこちらの方に歩いてくるのが見えた。向こうも俺たちを確認すると小走りでやってきてその姿に修平はメロメロになっている。…確かに可愛いけど。まだ時間前なんだから小走りしなくてもいいのに…そう思いながら俺は神経を表情筋へ集中し、顔がニヤけるのをなんとか阻止した。
愛莉ちゃんは修平まっしぐらでこちらを見もしない。だが、隣の美羽ちゃんはなんで俺がいるのか不思議そうにしている。…もしかして、俺がいること知らなかったとか?横目でジロリと修平を見るも何食わぬ顔でさっさと遊園地のゲートの方へ歩いていく。とりあえずはぐれるといけないので「俺たちも行こうか。」と声を掛けた。
「そうか。あの2人がいい感じならあえてはぐれるのもアリか。…でもさすがに今はまだ、早いかな…もう少し距離が縮まれば2人きりにしてあげよう。」なにやらブツブツ聞こえるが俺に関してはなんの意識もしていないようだ。ただ、独り言が漏れていることに気付いたのだろう。少し気恥ずかしそうに
「中原さん行きましょう。2人に追いつかなくちゃ。」とキラキラした笑顔で歩きだした。ななめ前を歩く彼女は合コンの時とは少し雰囲気が違いワンピース姿がよく似合うなと感じた。
その後…彼女の当初計画した通り2人の距離が縮んだのを見計らいそっとその場から離れ2人きりしてやった。『2人きりにしてやる。感謝しろ。』一応修平に連絡を入れておいた。…そうなると当然こちらも2人きりなのだがそのことには気にも留めていないようで
「中原さん、これからどうしますか?…私はこれからご飯食べに行こうかと思うんです。園内のレストランのご飯がおいしいって話題で…特にハンバーグが絶品らしいんです!」
彼女は1人でレストランに行くこと前提で話してるじゃないか。…1人きりで残されたら困る。カップルと逆ナンしてきそうな女だらけの中に1人とかどんな罰ゲームだよ!
「俺も一緒に行きます。ハンバーグおいしそうですね。」
「そうですか。じゃあ行きましょう!」
あたりさわりのない会話を続けながら、レストランに到着した。決して会話は多くないが、かといって気まずくなることもなくレストランで食事をした。彼女は煮込みハンバーグ、俺は和風ハンバーグを食べた。話題になるだけあって結構美味かった。美味しそうに食べる彼女を見ているだけでほっこりした。しばらく休憩したあといくつかアトラクションに乗り、修平たちと再合流した。
修平たちの距離もだいぶ近くなっており2人が付き合いだすのは時間の問題だろう…隣の彼女も満足そうにうなずいている。どうやら彼女も同意見のようだ。閉園時間になり解散になった。
今日は思いのほか楽しかった…彼女がいるならまた4人で会うこともアリだな。そんなことを考えつくほど彼女は他の誰とも違う魅力があるのだろうか…。
何度か4人で会ううちに修平と愛莉ちゃんは付き合いだし俺と彼女が会う機会がなくなった。
彼女に会いたいなら自分で行動を起こせばいいのに。それが出来ない自分をもどかしく思う…
7月下旬
日差しの強く夏の暑い日…久しぶりに遊ぶことになり4人で海に行った。
久しぶりすぎて彼女に話しかけるタイミングを完全に失ってしまった…でもそうも言っていられなくなった。なぜなら、美羽がナンパされているのを見て自分の中で火がついたことに気付いた。当の本人はナンパされているなどとは露ほども思っていないようで、戸惑いながらと笑顔で対応している姿を見て胸がモヤッとした。
美羽は自覚していないが背が高い分足も長く、普段は隠れているラインもビキニを着ているとスタイルの良さが引き立つ。自分が思っていたより胸もありナンパする男の気持ちがわからなくもない。簡単に彼女に声をかけられる男たちにイラッとした。
美羽が俺に好意を持っていてくれているのはなんとなく気付いていたが、一向に進展しない関係に内心焦ってしまう。…そのうち美羽が告白してくるだろうとタカをくくっていたのに…そんなそぶりも一切なく、自分から動かなければダメなんだと悟った。
砂浜にたたずむ彼女は人目を引く…彼女は自分がどれほど魅力的か分かってない。そこが魅力でもあるが心配なところでもある。
ある決意を胸に彼女の元へ歩き出す…ナンパ野郎を追いはらい
「他の人の所に行かないで俺のそばにいて。」
人生初の告白で俺にしてはこれが精一杯だった…だが自分に向けられる感情に鈍感な彼女は
「大丈夫だよ。迷子にもならないし迷惑かけないように気をつけるから恭護くんも楽しんでね」
なんとも的外れな返答に業を煮やし…
「や、そうじゃなくて…美羽、俺の恋人になってって言ってるんだけど。」
耳のあたりが熱い…
「ほんとに?…私でいいの?」
「美羽がいいの。…で返事は?」
瞳を潤ませ顔を真っ赤にした美羽は
「私でよければ…よろしくお願いします」
美羽の返事にホッとしつつ、朝からずっと思っていたことを口にした。
「とりあえず何か上着着てくれる?目の毒だから。…またナンパされたら困るし。」
上着を差し出しながら照れ隠しにそう言っていたのだが、美羽はある意味手強かった…
「さっきのはナンパじゃなくて海の家の勧誘だったよ?ナンパなんてされるわけないよ〜」とのんきに話している美羽に”そんなのただの口実に決まってるだろ!”そんな彼女に焦れて突然の口づけで続きを塞いだ。
真っ赤な顔をした彼女に”ほら、行こう。”と手を差し伸べた。美羽がその手を取ってくれたことに内心ホッとしながら、他の奴らに見せつけるかのように少し遠回りして修平たちの元へ戻った。
自分から誘う予定だった花火大会に美羽から誘われた時は驚いた。と同時に嬉かった。彼女もちゃんと俺のこと気にしてくれていたと…彼女ことだ…この前の告白をなかったことにしかねない。でもそうじゃなかった。にやける顔を手で隠しながら、返信した。もちろんOKだと。
並木道の入り口で待ち合わせし、美羽を待った。すぐに彼女の姿が見えた。
「ごめんね。…恭護くん、待ったよね?」
「いや、今来たところ。それにまだ待ち合わせの時間前だし……そうだ。地元の人しか知らない花火がキレイに見える穴場スポットがあるんだ。行こうか?」
ただでさえさっきから視線が集まるのを感じていたが、彼女が来てからさらに注目されている。周りの人が、特に年配の方が急いで駆け寄り少し息が荒くなりながら話す彼女を微笑ましく見ていることなど美羽はまったく気付いていない。
手を握りながら屋台で飲み物や食べ物などを買いながら人混みを歩いた。そんななか彼女を見る視線に気付き、美羽に見とれる男どもから早く抜け出し、見せつけるように手を握って足早に並木道を通り抜けた…美羽を独り占めしたかった。地元の人間しか知らない穴場スポットへ連れて行った。多少人はいるものの、他に比べたらゆっくり花火が見えるだろう。開始時間が近づくとともに少し人が増えてきたが、それでも彼女と見る花火はきれいだった。今度は自分からデートに誘って、彼女のいろんな表情を独り占めしたい。そう思った…
夏休みには4人で旅行に行ったのだが、この旅行で泊まった別荘が実は中原家のものとは言えず、美羽や愛莉には知り合いに借りたと嘘をついてしまった…後ろめたく感じながらも、もし俺が御曹司だと知ったら…態度が変わってしまうかもしれない…不安が拭い去れず言えなかった。
美羽は元彼のことも打ち明けてくれたというのに…なんとなく美羽に傷ついた過去があることを感じていた…聞き終えたとき元彼に対してすごく腹が立った。…それと同時に自分だけが彼女に秘密を抱えているなんて…早く打ち明けなければいけないとわかっていたのにそれが出来ないまま時間が経ちすぎて…いつの間にか話すタイミングを失ってしまった。
あの時本当のことを話していたなら、彼女はいま自分の側にいてくれただろうか……。