ねぇ、運命って信じる?
指輪を外してからというもの…田中以外にも声をかけてくる人が増えて業務に支障をきたすことになりかねないので、詩織先輩に相談した。
「やっぱり指輪したほうがいいですよね…」
「…以前の指輪をはめたらいいじゃない?私に遠慮する必要はないからね!」
あっけらかんと笑って言ってくれたので節約にもなるし懸念事項はなくなったのでまた指輪をはめることにした。これで工藤とお揃いじゃなくなったし、幾分気が楽になった。
指輪をはめた途端に声をかけてくる人が激減した…ただそのほとんどが佐山ちゃんへ流れていったけれど佐山ちゃんは慣れたもので気にも留めていないみたいで、尊敬の念を抱いた。私もそんな風に軽く流せるようになりたい!と…
久しぶりに愛莉と予定が合ったので、ごはんを食べに行く。2カ月ぶりかな?…愛莉はその容姿を存分に発揮し会社の受付嬢として働いている。
卒業してからも最低でも2カ月に一度は会っていたのに…今回は予定が合わず2カ月ぶりになっちゃったけど。
息抜きや頼りにしたい時などよく深夜まで電話で話したり、愛莉が泊まりにきたり2人で旅行にも行っていたけど、最近はメールや電話で話すことが多かった。
愛莉は修平くんと同棲中でお互いの両親公認で”もしかしたらそろそろ結婚するかも?”とプランナーである私に相談することが増えてきた。愛莉には幸せになってほしい。だって辛いときに支えてくれた親友だから。
ひさびさの愛莉との食事はとても楽しくお互いに色々なことを報告しあって話が尽きなかった。…クズ男との嬉しくない再会を果たしてしまったことも報告した。
「何それ?サイテー。」
あの時の事を知っているだけに渋い顔でまだ何か言い足りなさそうだけど、こちらもあまり話したくないことなので軽く流した。
「まぁ、もう来ることもないと思うし。また何かあったら相談するから」
「うん。わかった!それでね…修平ったら…」
その後は愛莉の惚気話を聞かされ、私はほぼ相槌を打つだけだったけど…それでもとても楽しかった。
食事も終盤に差し掛かり、デザートを頬張る私を神妙な顔で見たあと、愛莉は少し口ごもりながら…
「ねぇ…最近恭護くんに会った?」
愛莉はこちらの様子を伺いながら若干聞きずらそうに視線を泳がせている。
「どうして?…何か知ってるの?」
「うん…まぁ…ね…」
それきり愛莉は口を重く閉ざしてしまった。きっと修平くんから何か聞いたのだろう。話しにくいのも仕方がないので、こちらの話を先にすることにした。
「この前、式場に可愛い彼女と一緒に見学に来たんだ…」
さすがにそこまでは知らなかったのか目を見開き驚いているけど一気に続ける。
「彼、結婚するみたい。…何も私が働いている式場に来なくてもいいのに。もう私のことなんて気にもならないのかな?…それに彼ナカハラグループの御曹司なんだって。後輩に聞くまで知らなかったよ…」
愛莉が口を開きかけたその時、電話がかかってきた。職場からの急な呼び出しだった。
「愛莉ごめん…職場でなんかトラブったみたい。また今度でもいい?本っ当にごめんね!ここは奢るから!」
両手を合わせそのまま小走りでお店を出た美羽は、愛莉が背中へ呟いていたことなど、知るよしも無かった。
「ずっと話さなくちゃ。って思ってることがあるのに…」と。