蝶が羽ばたくと
真っ青な顔をした教員達に、
姉が落ちる時の自分も
こんな顔だったのかと
安寿は思わず笑ってしまう。


「北野っ、私達が悪かった。」

「ちゃんと公表する、だから」

「北野さんっ、お願い止めてっ!」


必死な叫びに心の中で
手遅れだと安寿は思った。


「せんせ、それって。
これ以上学校に
汚名を着せたくないから?
それとも、私を死なせたくないから?」


美しい少女は、まだ齢16歳だというのに
凛としてそこに立っていた。


それも、微笑んで――――――――だ。


真っ青になる教員達。
それも、仕様がないだろう。


死を覚悟した笑みだったのだから。


答えない教員達。
だか、安寿は分かっていた。
彼らの答えが前者だと。


聞かなくても分かっていたのだ。



「一羽の蝶が羽ばたくと、
地球の裏側で竜巻が起こる。」


そっと薄く紅色の唇を開いて
安寿は後ろに手を組ながら言った。


雨が強くなっている――――――――。



「ごくわずかな変化も、連鎖反応的に
大きな変化になりうるという
カオス理論。ご存知ですよね?」


クスッと彼女が笑えば、
息を飲む教員達。


ゴロゴロと雷の音が
聞こえる――――――――。




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