天才怪盗が拾った少女
わかってる。
わかってんだよ。
でも、いくら頭ん中で理解してても、どうにもなんねぇことがあんだよ。
俺は力の限り拳を握りしめた。
「一弥、僕だって殺してやりたいって思うよ」
海と違って優しく声をかけてくれた滋。
「一弥のお父さんは優しかったし、咲ちゃんは誰よりも、どんな子よりも明るくてかわいい子だった。そんな2人の命を奪ったやつを生かしときたくない。それは、海だって同じ。だけどね、そんなことしたって意味ないよ。逆に一弥が苦しむだけなんだ」
滋の言葉は想像以上に胸に刺さった。
みんな、同じ……
柏木冬馬を恨んで、殺したくて……
でも、それはダメだって自分の感情をコントロールできてる。
俺は、できなかった……
「俺、天才怪盗、失格だな……」
「あぁ、そうだな」
こんなときでもこいつはかわんねぇな……
でも、そうやっていつも通りに接してくれて助かるわ。
逆に笑えてくるしな。
「殺人とかってのは忘れてくれ。俺ららしい復讐をしようじゃねーか。今後狙うのは柏木冬馬の大切なモノのみ。脱出の天才が本物の天才怪盗になってやる」
俺がそう言うと、2人は嬉しそうに、かつ悪巧みをする子供のように微笑んだ。
「さあ、ショーを始めよう」